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翌日。 トリステイン魔法学院では、早朝から訓練が行われていた。 中庭で整列した生徒達が、点呼のやり方や集団行動の基本などを教えている。 その光景を、本塔の学院長室から見ているのは、オールド・オスマンとアニエスの二名であった。 「優秀な秘書がおりませんでな、仕事がたまる一方ですわい」 「秘書というと、ミス・ロングビルのことですか」 部屋の中央に置かれたテーブルを挟むようにして、六人がけのソファに座っている。 すぐ傍らには『遠見の鏡』が立てられており、そこには中庭の様子が映し出されていた。 「便利なものだな…これがあれば作戦も立てやすくなるだろうに…」 そんなアニエスの呟きに、オスマンがフォフォ、と笑った。 「何、この遠見の鏡が通用するのは、せいぜい魔法学院の敷地内だけじゃよ」 「しかし、王宮では、特にアカデミー関係の研究者からは、貴方は今も恐れられている。”トリステイン全土を見渡している”と」 「それはただの噂じゃ。少し長生きしすぎてのう……教え子達が沢山いるだけじゃ。ま、そやつらの若い頃の失敗談を、ちょいと知っているだけじゃよ」 「なるほど、それは確かに驚異だ。裏の裏まで見通されているようで、さぞかし恐れられましょう」 アニエスが唇を僅かにゆがめて、笑った。 しかし、その瞳は笑っているというより、オスマンを見定めようとしているようにも思える。 「ところで、今日は、昨日の話の続きですかな?」 軽く前屈みになって、アニエスを試すような目で見つつオスマンが切り出した。 するとアニエスは懐から一枚の羊皮紙を出し、テーブルの上に差し出す。 「これは…女王陛下の許可証じゃな。アングル地方ダングルテールの虐殺に関する調査ですか」 「そうです。オールド・オスマンならご存じでしょう。高等法院のリッシュモンが、ロマリアへ媚びを売るためダングルテール虐殺を行い、賄賂を受けておりました」 オスマンはひげを撫でて、ふぅむと呟いた。 「これによって得たロマリアとの太いパイプを利用し、マザリーニ枢機卿の裏を掻いて多額の賄賂をため込んだリッシュモンをはじめ、その関係者を逮捕するのが私の役目です」 二人の視線が交差する、アニエスは得体の知れない老人の鋭い目を見据え、オスマンは冷静を装う復讐鬼を見つめた。 「仇討ちじゃな」 「否定は致しません。ご協力願います」 「かまわんよ、理由はどうあれ、ミス・アニエス…君にはその権利があろう。協力を約束する」 「では後ほど、いくつかの資料を貴方の記憶と照合して頂きたい。私はこれより軍事教練の指導にあたらねばなりませんので」 アニエスがソファから立ち上がり、学院長質の扉に向かって歩き出す。 扉の前に立ったところで、オスマンが口を開いた。 「……ところでミス。君は此度の”総力戦”にどう思われるかね」 アニエスはその場で立ち止まると、少し間をおいてから答えた。 「戦争は避けられません。将軍閣下は非道きわまりないクロムウェルを、早急に討ち滅ぼすべしと躍起になっています」 「ワシは、君に聞いてみたいのじゃが。あくまでも君個人にじゃ。この軍事教練にしても、貴族子弟の登用にしても、あまりにも急ぎすぎではないかね?」 「戦争には男も女もありません、そして時間もありません。逃げまどう暇も無ければ立ち向かう時間もないのです。すべてに平等な死が訪れます。戦争など皆、そうでありましょう」 アニエスは振り返りもせず言い放ち、学院長室を出て行った。 「もったいないのぉ、有能ではあるんじゃが、あれでは王宮で恐れられるじゃろうて」 呟きつつ、オスマンは念力で水パイプを手元に引き寄せる。 「剃刀は、むき出しではいかん。かといって鞘に入っていてもいかん。なまくらに見せかけるのが一番じゃて」 …………遠くから声がする。 屋敷の庭園から抜け出して、外の世界を見ようとした僕を、乳母が追いかけてきた。 視界がとても低く、小さな林も迷い込んだら出られない気がした。 木漏れ日がまるでシャンデリアのようで…ああ、乳母に抱きかかえられ、揺れ動く視界の中で、鳥が飛び立ち、風が頬を撫でて…… 「うっ…あ?ここは」 子供の頃の夢から目覚めると、天井には木漏れ日ではなくシャンデリアが下がっていた。 辺りを見回すと、自分がベッドに寝かされていたのが解った。 「お目覚めでございますか。ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド様」 声の主はメイドだった、くすんだ金髪を首のあたりで切りそろえた少女で、12歳ほどにしか見えなかった。 額に乗せられた冷たいタオルもどうやら彼女がやってくれたようだが、ワルドはそれを訝しげに思った。 なぜこんな所に寝かされていたのか記憶のハッキリしない。 「石仮面様より言伝を賜っておりますが」 「…聞かせてくれ」 「『概要は自分が伝えるので、体調が回復次第王宮へ出頭し、細部を報告するように……』」 ルイズからの伝言を聞くと、ワルドは体を起こし毛布をどける。 頻繁に汗を拭き取られたのであろう、全裸の上に吸水性の高いガウンを身に纏った姿で、義手も外されていた。 窓からは夕焼けが差し込んでいる。 「私が運ばれたのは、今朝か?」 「はい」 「君の、所属と名は?」 ワルドが質問する。 「私は銃士隊の身の回りをお世話するよう、アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン様より賜りました、ハンナと申します。今はワルド様のお世話を石仮面様より賜っております」 「そうか。ではハンナ、ここは王宮ではないようだが、何処だ?」 「トリスタニアの、元はリッシュモンというお方の屋敷だと伺いました」 「僕がここに来た経緯は解るか」 「こちらのお屋敷は、銃士隊の方々が調査しておられました。石仮面様は明け方にこちらに現れて、ワルド様の体調が整うまで預けると……」 「わかった。すぐに僕の服と装備を持ってきてくれ」 「ですが、まだお熱が引きません…」 ハンナがワルドを留めようとする。 「君は貴族に仕えたことは無いようだな」 「えっ」 「怖がらなくていい。なあに、貴族は見栄っ張りなものなんだ。”僕はもう治った”。いいね?」 「は、はい。ただいまお持ち致します!」 ぱたぱたと小走りで部屋を出て行く、年若いメイドを見送って、ワルドはほほえんだ。 「まだまだ子供か。メイド見習いといったところか。ふふ、ウエストウッドを思い出すとはな……」 体調はだいぶ良くなっている、少し頭痛はするが、海岸にたどり着いたときとは天と地の差がある。 もうろうとした意識の中で見た、懐かしい夢のおかげか、それとも看病してくれたメイドのおかげか、ワルドは清々しさを感じていた。 更に数時間後。 場所は変わって、トリステインの王宮、大会議室。 神聖アルビオン帝国の宣戦布告の際、大臣や将軍達を一喝したアンリエッタの姿が記憶に新しいこの部屋に、トリステインの重鎮が揃っていた。 一人遅れてやってきたマザリーニが、奥の席に座るアンリエッタを見る。 アンリエッタが二人いた。 「!? ………ああ、石仮面どのですか」 「そんなに驚くことも無いじゃない」 並んで座るアンリエッタ二人のうち、一人が立ち上がり、椅子を移動させる。 クスクスと笑う二人のアンリエッタを見て、マザリーニは目を細めたが、さすがにため息はつかなかった。 会議室の座席に、秘密会議のメンバーが揃ったところで、会議が始まった。 席順は、奥にアンリエッタ。右列奥からウェールズ、ルイズ。左列奥からマザリーニ、ワルドである。 本来ならアニエスにも参加して貰うところだが、今は魔法学院で軍事教練を行っているため、この場には居ない。 マザリーニはテーブルの上に、幅2メイル以上あるアルビオンの地図を広げて、口を開いた。 「概要は石仮面から聞きましたが。ワルド子爵、細部の報告を」 「はっ」 ワルドは立ち上がると、地図を指さしながら、アルビオンに潜入して得た情報を話していった。 今はアニエスが居ないので、ルイズが身を乗り出し、書記官役をした。 報告内容は、ワルドの遍在が各地に飛んで得た情報や、マチルダの協力者から得たもの、そしてルイズが姿を変えて町中で調べたものであった。 中でも、ルイズが直接確認した兵站の情報は、アルビオンの残存戦力をはかる上で重要度が高い。 しかし報告を終えた後、マザリーニとウェールズは、どこか困ったような顔をしていた。 「枢機卿、何か気になる点でも?」 アンリエッタが問いかけると、マザリーニは恐れながら…と呟き、考えを述べた。 「この情報は戦争を早めるには有効です、しかし、現時点では何の準備も整っておりません。戦争になれば年若い貴族が功績を求め、我先にとアルビオンに上陸しようとするでしょう」 「それは、良いことなのではありませんか?」 アンリエッタが不思議そうに首をかしげた、すると今度はウェールズが口を開く。 「僕もその気概には、大いに賛成するところがある。しかし……」 ぐっ、と口を閉じて、ウェールズが何かを耐えるような表情を見せた。 それがなんだか解らず、アンリエッタはますます不思議がった。 「……自国の民を犠牲にするようだが、トリステインとゲルマニアの連合軍が確実に勝利するには、最低でもあと半年は兵糧攻めにせねばならない」 「そんな…!」 ウェールズの言葉にアンリエッタが驚く。 「ウェールズ様、ですが、ルイズ達の報告では、アルビオンの民は略奪による過酷な飢餓状態で苦しんでいるのですよ」 「それを疑ってる訳じゃない。ただ、この情報を将軍らに開示することによって、トリステインは大儀を得てしまう。 『民を苦しめる邪悪なレコン・キスタ』を討伐するという、より大きな大儀だ。それがいけない。 戦争の準備が整っていないのは、トリステインも同じ、今戦いに赴けば途方もない犠牲を生む。 アルビオンのためにトリステインが疲弊し過ぎれば、それはアンリエッタ…君を糾弾する十分な理由となって襲い来るかもしれない」 アンリエッタが息をのんだ。 「その上殿下をトリステインの傀儡にすべく、将軍らが動くでしょうな……。ウェールズ殿下がアンリエッタ女王陛下と結婚されても、ウェールズ皇太子の実権は認められぬかもしれません」 マザリーニがそう語ると、アンリエッタはがたっと椅子をならして立ち上がった。 「そんな!」 「アン、落ち着いて。これは最悪の場合よ……枢機卿、話を続けて」 ルイズがアンリエッタを落ち着かせると、マザリーニは小さく咳払いをしてから、地図を見た。 「残酷なようですが、開戦のタイミングを計らなければなりません。アルビオンの貴族から力を削ぎつつ、民がかろうじて余力を残し、反撃に出られる程度に、です」 マザリーニとウェールズ、そしてワルドによる話が続けられた。 将軍達は、トリステインで建造中の戦艦が完成次第、遠征をすべきだとしている。 しかしマザリーニ、ウェールズ、ワルドの意見は、遠征は早くても3ヶ月後にすべき…であった。 トリステインは、隣国ゲルマニアやガリアに比べて半分以下の国土だが、戦力としてのメイジの数が匹敵している。 帰属主体の国家形成が、歴史に残る優秀なメイジを輩出していた。 ところが戦艦を建造する資源と技術には、秀でていると言い難い、『レキシントン』に搭載された大砲の威力など、トリステインでは再現不可能である。 竜騎兵などの貴重な空の戦力にも、秀でているとは言い難い。 一部の突出した存在により、トリステインは他国に劣ることなく存続してきた。 だが、決して秀でているとは言えなかったのが、トリステインという国であった。 その国内で横行した貴族の腐敗は、貴族達の貴族至上主義を増長させ、結果として平民による第一次産業の低迷を招く。 それによる不満は、タルブ戦の勝利により解消されたかに見えたが、根の深さは計り知れないのであった。 アンリエッタはあることに気付き、愕然とした。 「つまり、トリステインという国は、増えすぎた貴族子弟を間引く時期に来ている…というのですか?」 「……陛下、間引く、という発言はいけません。ただ、歴史は同じ事を繰り返しているのです。 戦争は何度も行われております、小競り合い程度などと言われる者から、大戦と呼ばれるものまで様々です。 しかし、大戦と呼ばれる戦の後には、どの国も如何に疲弊から立ち直るかに苦心しておるのです、その中には汚名を被ってまで国を立て直した王もおります。 この戦争は、最小限の被害で早期に終結させ、なおかつウェールズ殿下に功績を残し主権を認めさせ、その上で民や諸侯の不満を反らすためアルビオンの利権を奪わねばならないのです。 そのために最適な機会はまだ先なのです、アルビオンという国を救う救国の女王となるか、王子にうつつを抜かした悪女と罵られるかは、時の運と言うほか無いのです。 陛下、これはもはや逃れられません……数百年前にエルフと戦い、数えきれぬ損害を出した時とは違うのです、人間が相手なのですから」 アンリエッタはしばらく顔を俯かせていたが、目を閉じたまま顔を上げ、ゆっくりと、自分の視界を確かめるように目を開いた。 「わかりました。私は女王です。自国の民を救わんとウェールズ殿下が苦しんでいるように、私も苦しみましょう。マザリーニ、軍議に私が列するのは、来週でしたわね?」 「はい、そのように承っておりますが」 「数日早めなさい、そして此度ルイズ達が持ち帰った資料を小出しにしなさい。遠征の時期を遅らせます。……これでいいのですね」 「すまない…」 しばらくの沈黙の後、ウェールズが呟いた。 それがアルビオンの民に向けての言葉なのか、それともアンリエッタへの言葉なのか… おそらく両方だろう。 「では、ルイズ、貴方に任務を与えます」 「はい」 アンリエッタがルイズを見る、ルイズはアンリエッタの姿で頭を下げた。 「魔法衛士から傭兵まで、いかなる身分を用いても構いません。影ながら魔法学院を護りなさい」 「…!」 「もし、魔法学院が襲撃されれば、取り返しのつかぬ事になりましょう。 レコン・キスタのみならず、アンドバリの指輪で操られた者達を恨み…いいえ、アルビオンの国民すべてを恨む風潮となるやもしれません。 アンドバリの指輪が今の世に存在するなど、知られてはならないのです。悪用する者が必ず出るでしょう。 私たちはあくまでも、クロムウェルが人身を操る邪法の使い手だとして葬らねばならないのです。 でなければ…この戦争は、アルビオンとトリステインの、永遠に終わらぬ確執を作ることになります」 ルイズはアンリエッタの言葉に驚いた。 「姫様、そこまでお考えに…」 「皆の知恵から借りただけですわ、ルイズ…貴方には辛いでしょうけど、魔法学院を守って。 アニエス達は将軍達から嫌われているから、きっと将軍達はアニエスのミスを望んでいるわ、そうならないために監査して欲しいのも理由の一つなの」 「…では、すぐに魔法学院に向かいますわ。引き続き陛下から賜った身分証を使わせて頂きます」 「ええ、お願いね、ルイズ」 アンリエッタが微笑む。 その表情は少し疲れを見せていたが、疲れを見せて微笑むのは、幼なじみであるルイズだからこそである。 ソレを知っているからこそ、ルイズは嬉しかった。 「僕からも、頼む。君には何から何まで、世話になる…本当にありがとう」 ウェールズの言葉は、自分の力が足りず申し訳ないと言っているようで、どこか力がない。 「私に礼を言うなんて、まだ早いわ。すべては…そうね。戦争が終わってからよ」 「そうだな。どうしても弱気が出てしまう、これじゃかえって申し訳ない」 ルイズはにやりと笑みを浮かべた。 ウェールズとアンリエッタを交互に見てから、マザリーニとワルドに視線を向けた。 「それでは…殿下と陛下におかれましては、引き続き二人で軍議を続けてくださいませ」 「「え」」 マザリーニが避難するような目をルイズに向ける。 「石仮面どの…」 「いいじゃないの、たまには。息抜きも必要よねえ、そう思わない?ワルド」 ルイズが話を振ると、ワルドはひげを撫でながら呟く。 「我が家の故事にこうある。”後は年若い二人で”…という奴かな」 二人きりの会議室で、何が行われたのか、それは十月十日後に明らかになるかも…しれない。 早朝、四時過ぎ。いまだ日は昇らず、空は暗い。 ルイズは顔立ちを変えて髪の毛を金に染め、麻のローブに身を包み、トリステイン魔法学院への道を歩いていた。 背に乗せたデルフリンガーとは、ずっと口をきいていない。 もし、メンヌヴィルが現れたら……そう考えると、どうしてもデルフリンガーが必要になる。 今まで何度もデルフリンガーに心を読まれているのに、今回ばかりはタブーを犯してしまったようで、心を読まれるのが恐ろしかった。 あるいは、心を既に読まれているかもしれないと、恐れていた。 「…早く行かなくちゃ」 そう呟いてはみるものの、魔法学院に行って、どうしていいのか解らない。 あそこにはシエスタがいる。 近くの森に隠れて、監視し続けるべきだろうか? ふと、足が止まった。 「…早く、行かなくちゃ」 そう呟いてまた歩き出す。 ワルドは会議の後、体調が完璧に回復するまで休むように言ってある。 今頃はリッシュモンの屋敷で水系統のメイジに治癒を受けているだろう。 ……そんなことを考えていると、また足が止まっていた。 「早く、行かなくちゃ」 魔法学院の上空に、一隻の小さなフリゲート艦が現れた。 甲板に立つ男は、顔に大きな火傷の痕があり、目は白く濁っている。 艦には、体温のある男が十数名、体温のない男が三名乗っている。 男は光の映らぬ眼でまっすぐに宙を見つめ、不気味に唇をゆがめた。 To Be Continued→ 前半へと戻る← 69前半< 目次 >70前半
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前ページ次ページPersona 0 Persona 0 第十八話 「ぐがぁあああああAAAAAAAAAAA!」 肉が軋む鈍い音を立てながらジュリオの体が作りかえられていく、韻竜の幼生を火龍山脈のサラマンダーを、鍛え上げられたグリフォンを、 そして数知れぬ多くの幻獣たちを取りこみながら、ジュリオが一匹の巨大な獣へと姿を変えていく。 次々に新たな命を取り込み異形を深めるジュリオ、その変態を主であるヴィットーリオは悲しそうな瞳で見つめていた。 だがその悲しみの奥底には奇妙なことだが歓喜にも似た熱が宿っている。 悲哀と歓喜、その矛盾した二つはけして相反することなくこの一人の狂信者のなかで息づいている。 ――そしてそれは、彼の使い魔もまた同じ。 「はぁっ、はぁっ、はぁ、ふふふ、どうだいヴィンダールヴもすごいもんだろう?」 そうたとえ使い魔のルーンなどなくとも彼〈ジュリオ〉は彼〈ヴィットーリオ〉の使い魔だ。 主を守り、主の目となり足となり、主の望んだことを行う。 使い魔の役目とされているその役目を誰よりも忠実に果たすと言う意味にかけて、ジュリオに比肩しうる者はないのだから。 そして今のジュリオはヴィットーリオの〈夢〉にその身すべてを捧げた。 天に向かって腕を伸ばすその姿が何に似ているかと問われれば、おそらく多くの人間がこう答えるだろう。 〈天使〉と。 だが、その天使は天からの使いと言うにはあまりにも生々しすぎる肉を身に纏う存在だった。 確かにその背中には巨大な三対の翼が有り、頭上には球状の塊がそのうちに白熱した炎を灯して輝いている、全体のシルエットは歪ながらも人のように見える。 しかしいくつもの幻獣をその血と肉としたその天使は、傍から見ればあまりにも毒々しい。 そしてよく見ればロマリアの地下で使われるのを待ち続けていた〈場違いな工芸品〉の数々もその体に融合していた。 右腕には三対のカラシニコフが機関砲の如く聳え、その背の翼の骨格はおそらくかつて聖槍と呼ばれたものの模造品。 他にもさまざまな時代な多様な兵器を内蔵した今のジュリオは、さながら生きた要塞とでも言うべき存在となっていた。 そのマジックアイテムの名前は〈ヴィンダールヴの鞭〉 人、或いは獣を、ヴィンダールヴが使役するための最強の「聖獣」へと作り変える、けして使われることのなかった奇蹟の残り香。 「ほら、こんなこともできる……!」 「――――!?」 ジュリオの六本の手のうち竜の形を蒼い腕がタバサに向けて手を伸ばすと、ふわりとタバサの体が浮き上がる。 「い、いやっ……」 短い叫び声、それに満足したようにジュリオは軽く笑うと自分の体の一部に命じて、腕を巡る精霊の力を強くした。 引き寄せられる華奢な体、一瞬でタバサはジュリオの体へと引き寄せられ…… 「やめ、こんなの……やめっ!?」 「おねえさま、シルフィと一緒になるのね、きゅいきゅい」 ジュリオの体から浮き上がった蒼い竜の顎に一飲みに飲み込まれる。 ごくりと喉を鳴らしたシルフィードは、そのままジュリオのなかへと沈んでいった。 「ふ、ははは、まずは一人……! いや二人かな?」 その顔だけを天使の額から露出させた状態で苦しそうに呻くジュリオ、そのジュリオの顔の下には一人の少年が縫いとめられている。 両手と両足を肉の中に縫いとめられた状態で忘我した状態で聖人のように吊るされる彼の名は、平賀才人。 サイトがほんの少し前まで取り憑いていた、こちら側の世界の才人に他ならない。 「やめろっ、こんなことをして何になる!」 「聖下と僕の夢が叶う……それだけで、それだけで僕には十分なんだ」 ジュリオは叫びながらその体に内蔵された火器を点火、無数の三十九mm弾頭が高速回転しながらサイト達をなぎ払う。 「ぐあっ!?」 「きゃあぁぁぁあああああ」 咄嗟に全員がペルソナでガードするが、その被害は甚大だった。 特に物理に対して耐性があるわけではないルイズと、貫通に弱いギーシュにはこの一撃は耐えがたい。 「ルイズ!? ギーシュ!? 待って今メディアラを……」 ペルソナを展開しようとするキュルケ、そのキュルケへ。 「させないよ……堕天の微笑み」 ぞわりとキュルケは体を震わせると、そのまま体を痙攣させながら立ち竦む。 何が起きたのかは、おそらくその魔法をその身に受けたキュルケさえも分かってはいないだろう。 ――それは対象に術者の想いを流し込む魔法 キュルケの精神は今、ジュリオの狂信によってオーバーフローさせられているのだ。 だから思えない、何をすべきなのか考えられない。 そしてその間隙でキュルケが垣間見たのは、凄愴とも言うべきジュリオの過去の記憶だった。 まるで夢のようなその情景のなかで、子供の姿のジュリオは死の床にあった。 周囲には何人にも大人たち、彼らは口々に先祖還りだの、マギ族の血だの、わけのわからない言葉を吐いている。 だがひとつだけ共通しているのは、誰ひとりとしてジュリオを助けようとはしていないことだ。 「呪われた子め!その悪魔の眼で私を見るな!」 助けを求めるように見上げた瞳に帰ってきたのは痛烈な拳骨の一撃だ。 顔を、腹を、もう一度顔を、体中を滅多打ちに殴られて肺の底にたまっていた血の塊が再び喉元へとせり上がり、ごぽりとその口からあふれ出る。 その光景に、回りの大人たちは尚ジュリオへの嫌悪を深めたのだろう、ジュリオを甚振る拳がまた一つ増えた。 もういやだ、逃げだしたい。 助けは来ないことなど分かっていた、それでも祈ってしまった。 ――ブリミル様、どうかこの汚らしい僕を、この世界から消し去ってください。 その願いは叶えられることはなかったが、しかしジュリオは運命とでも言うべき出会いを得た。 突然の怒号、周囲にいた大人たちを杖を奮って制圧していく聖堂騎士たち。 その背後から現れたのは先代の教皇と、未だ年若い少年と言っても差支えない神官であった。 あたりに満ちる噎せ返るような血臭のなかで、ジュリオは目の前でありきたりな慰めと慈しみの言葉を自分に向かって投げかける老人よりもなお。 その後ろで微笑みながらも涙を浮かべる少年神官のほうが、何倍も何十倍も尊く思えた。 「キュルケしっかりしろ、キュルケ!」 じんじんとする頬の痛み、一瞬の白昼夢からキュルケは目覚めた。 状況は一つも変わっていない、いや前よりも何倍も悪くなっている。 タバサと“才人”は肉の牢獄へと囚われ、ルイズとギーシュはとても戦列に戻れそうもない瀕死の重傷を負っている。 そして無事なのがサイトとキュルケの二人だけしかいないと言うのがもう一つの最悪だった、二人のうちどちらにしても人質だけを避けてジュリオを倒す手段がない。 もしサイトが“記すことさえ憚られる使い魔”の力を使えばジュリオは倒せるかもしれないがタバサと才人は無事では済むまい。 そしてキュルケには一撃でジュリオを打倒するだけの力がそもそもない。 「さぁおとなしく僕らに協力するんだ、そうすれば……」 じりりとジュリオがその巨体を揺らしながら二人へとにじり寄る、背後には壁、目指す階段はジュリオがふさぐ吹き抜けを走り抜けてなお遠く、もはや完全に手詰まりかと思われた。 だが…… 「ジュリオ、一つだけ聞かせろ……」 「なんだい? 兄弟」 「もし、もしも此処で俺が首を縦に振ったらお前や、お前が取りこんだ使い魔たちは元に戻れるのか?」 そのサイトの言葉に、ジュリオは僅かに悲しそうに首を振った。 「それは無理さ、僕と彼らは“神の獣”として混沌に溶けてしまった、この状態でなんとか出来るとしたら本当に神か始祖ブリミルくらいのものだろう」 僅かに嘆息、口の端に浮かべた苦笑はこの期に及んで何を聞いてくるのかと言うサイトへの呆れか、それともこんな姿になってまで軽口が減らない自分への嘆息か。 「ああ、でも安心してくれていいよ、君の半身とシャルロット姫殿下は体内に幽閉してるだけで取りこんだ訳じゃないからね、君が聞き分けよければ二人の身の安全くらいは保証でき……」 皆まで聞くまでもなくサイトは駆け出していた。 「くっ、おとなしくし……」 ジュリオが腕を振りかぶり……その瞬間にすべては終わっていた。 サイトが唱えたのは虚無のスペル、〈加速〉だったから。 瞬きの一瞬の間にサイトはジュリオへと迫り、そしてデルフリンガーを振り下ろす。 鮮血が舞った。 ジュリオではなく、その体に縫い止められたもう一人の“才人”の体からだくだくと止め処なく。 「ごぷっ」 口から盛大に吐血する才人、その心臓にはデルフリンガーが深々と突き刺さっている。 「あんた、何してるの!? 何してるのよおおおおおおおお!?」 キュルケの絶叫など意に介さず、サイトは才人の体からデルフリンガーを引き抜いた。 切り裂かれた胸からは派手に血が飛び散り、天使となったジュリオの体を赤く染める。 どう見ても致命傷だった。 「その体は“ヴィンダールヴ”の能力で制御してるんだろう?」 「サイ……ト……マサカ……キミは……」 サイトはもう一人の己の死を悼むように瞳を閉じ、途中で首を振ってジュリオを見た。 悼む資格なんて、とうの昔に自分からは失せている。 「だったら、“俺”が死ねばいい」 もう一度盛大に才人が血を吐き、その右腕のルーンの光が次第に薄く掠れていく。 それとシンクロするように、ジュリオの体のあちこちが自分の好き勝手に動きだす。 てんでばらばらに方向に発射される銃弾、苦しむように背中から吐きだされる火球、皮膚から聞こえるいくつものうめき声。 本来ならば異なる者同士を混ぜ合わせたことに拒絶反応、ヴィンダールヴの能力で抑えていたそれが一気に噴き出したのだ。 「黙れお前ら! 僕に従え!」 「ジュリオ、タバサを返せ!」 自壊していく肉体、そのうちの一本がもげ落ちた。 「ぐあああああああ!」 内側から強烈な冷気の一撃を見舞われたのだと気づく間もなく、蒼い髪の少女が空中へと躍り出る。 まとわりつく粘液と肉片をへばりつかせながら、半裸のタバサは生還した。 「タバサ!」 「ごめんなさい、心配させて」 かろうじて残ったローブで体を隠しながら、雪風の少女は戦列へと復帰した。 「はは、はははははは、ははははははははは!」 ジュリオは笑う、笑いながら拒絶反応で崩れていく体で最後の悪あがきとばかりにサイトに向かって飛びかかる。 「さよならだ……ジュリオ。みんな、やってくれ」 「でも、まだ才人が……」 「いいんだ! どうせあの傷でたすかりゃしねぇよ。やってくれ、さっさと俺ごと奴を撃ってくれ!」 「キミは、自分を殺すと言うのかい!?」 「だめよ、そんなの許さ……」 ――――マハブフダイン 真っ先にジュリオの体に付き立ったのは、巨大な巨大な鋭い氷柱。 それをぶつけた少女は食い締めた唇から血を流しながら、涙を堪えてジュリオを……その体に取り込まれた才人を見ていた。 「彼の意思を無駄にしてはだめ」 そう言うと、タバサはさらに氷の雨を降らせて行く。 次々に傷つき、凍り付いては砕けるジュリオの体。 傷つき、原型を失っていく才人の体…… 辛そうに魔法を唱え続けるタバサの後ろにサイトは寄り添うと、その肩を抱きながら共に詠唱 スペル を唱える。 全てを終わらせるために。 その姿が皆の決意を固めたのだろう、誰にともなくギーシュやルイズも頷き、そして魔法を唱えだす。 「合体魔法で一気に決める……いいね?」 ――――タルカジャ! ――――メギドラ! ――――ハイプレッシャー! 「合体魔法、ゴッドハンドだ!」 シグルズの握った剣にイドゥンの放ったのメギドラが纏わりつき、まるで巨人の拳のような形をした力の塊になる。 飛び上がったシグルズはそれを躊躇なくジュリオへと叩きつけた。 自分に向かう死を眺めながら、とろけた体でジュリオはぼそりと呟いた。 「これでいい、後は彼女が……ああ、ヴィトーリオ様、僕はあなたのお役に立て……」 その言葉だけ残し、ジュリオの意識は闇へと飲まれた。 誰も一言も交わさず、極彩色に塗りたくされた回廊を歩く。 いつの間にかヴィットーリオはいなくなっていた、もはや彼らを阻むものはない。 だがジュリオの死は皆の心に黒々とした影を落としていた。 そもそも何故自分たちはこんな塔に登っているのか? それもただ顔見知りと言う間柄の相手の頼み如きで。 或いははじめからずっと共に死線を潜り続け、その心の闇を共有してきた仲間の頼みなら今此処で迷うことはなかっただろう。 だが多かれ少なかれ自分たちが信じてきた信仰を敵に回し、目の前で生の人間の死に直面して、ゆるぎない決意がない限りその心に迷いが生じない筈がないのだ。 ペルソナとは心の力、想いの結晶。 故に先ほどからシャドウたちを蹴散らす彼らの動きには、いつものような覇気が欠けている。 だがその時はやがて訪れる、誰にでも運命の時はいつかやってくる…… 「いる……この上に奴が……!」 震える拳を握り締め、サイトはルイズたちへと振り向いた。 「すまねぇ、こんなところまでつき合わせて。あとは俺一人で決着を……」 パンと乾いた音が響く、腫れた頬を押さえながらサイトはルイズを見る。 毅然とした表情、震えながらも虚勢に満ちたその姿、愛しくてしょうがない彼のご主人様。 「こんなところまで連れて来て、今更何言ってるのよ!」 サイトは頭を掻きながら僅かに苦笑する。 「そうだな、今更か」 サイトはゆっくりと長い長い階段を上り始めた。 カツカツとそれに追い縋るように軽い足音が続き、やがて怯えながらも優雅な足音が続き、決意を込めた足音が続き……最後におずおずと言った様子の足音が続く。 「この先にはガリアの無能王、ジョゼフとそして奴がいる筈だ……」 「奴?」 「ああ、運命を玩び、運命を嘲笑う。さいっていの野郎だ」 それは誰? その問いかけが届く前に視界が開ける。 見上げれば満天の星空と空に輝く二つの真月、その月光に照らされ、月を臨む塔の中心で一人の男が椅子に腰掛けていた。 「ようこそ待っていた、トリステインの虚無の担い手ルイズ」 男はゆっくりと立ち上がると、その顔に嬉しそうに嬉しそうに笑みを刻みながらサイトたちへ向かって歩みを進める。 「そしてその使い魔、ヒラガサイト……」 そして無能王はぴたりとその歩みを止める、その左手には始祖の香炉を、その右手には水晶で出来た髑髏。 それら二つを空へ向かって放り投げると、ジョゼフは月に向かって高々と吼えた。 「待っていた、待っていたぞーーーーー!」 取り出したのは銃と言うにはあまりにも禍々しい夜に塗りつぶされた漆黒の塊。 それを自らの頭に押し付けると、ジョゼフは躊躇うことなく引き金を引いた。 「ペルソナッ!」 ぞわりとジョゼフの影が蠢く、影達は空へ向かって立ち上がり幾多の触手となって湧き出した。 夜を塗りこめた体にはあらゆるモノを嘲笑する歪んだいくつもの目、いくつもの口があり、今もまたケタケタと嘲笑うことを上げ続けている。 人の持つ暗黒面の象徴たるペルソナにして、破滅を望む者たちに力を与え、その自滅していく姿を嘲笑う者。 千の貌を持つそのペルソナの名は這いよる混沌-ニャルラトホテプ- 「さぁ舞踏会のはじまりだっ、俺を退屈させるなよっ!」 前ページ次ページPersona 0
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静かに風を受けて飛ぶ輸送船の上で、ルイズは星空を見上げていた。 ロングビルの助けを借りて輸送船に乗り込んだルイズは、船を宙に浮かす『風石』が足りないと言っていたが、 足りない分をワルドの魔法で補う条件で出航した。 「ルイズ、どうしたんだい?」 ワルドがルイズの側に寄り、肩に手を置く。 「ロングビルが心配なのか?」 ルイズは、無言で頷いた。 傭兵の一団を壊滅に追い込んだキュルケ、タバサ、ギーシュの三人は、桟橋へと急いだ。 ギーシュは、周囲を警戒しながらも走る速度をゆるめないキュルケとタバサを、息を切らせながら追いかけていた。 長い階段を駆け上がると、桟橋のある丘の上に出る。 そこにはロングビルが倒れていた。 キュルケが駆け寄ろうとしたが、それをギーシュが制止する。 「ツェルプストー!待て!」 「何よ!」 「ロングビルに触れちゃ駄目だ!」 ロングビルの両手首からは、血が流れ続けていた。 水たまりになる程ではないが、かなりの出血がある。 ここにいる三人は強力な治癒の魔法は使えない、怪我を治す秘薬も所持していない。 町に戻っても秘薬があるとは限らないので、早く止血しなければ失血死の危険がある。 キュルケが焦るのも無理はなかったが、タバサまでもが杖でキュルケを制止したので、キュルケは別の意味で驚いた。 「罠」 タバサの言葉に、キュルケは焦りが冷めていくのを感じた、タバサとギーシュの意図に気づき、背中に冷たいものが走った。 タバサがディティクトマジックで罠を調査する、すると、ロングビルの体に何かが仕掛けられているのが分かった。 いつも無表情なタバサだが、このときはギーシュでさえタバサの口元に力が入るのが認識できた。 「ちょっと、タバサ、何があるのよ」 「小さい…箱のようなもの?」 小さな箱のようなものがある、それは分かったが、タバサにはその罠がどんな罠なのかまでは分からなかった。 「ツェルプストー、硫黄の臭いだ、火の秘薬と…油のような何かの臭いがする」 キュルケがギーシュの言葉に驚く。 「ギーシュ、あんた、分かるの?」 「いや、僕じゃない」 そう言ってギーシュが足下を指さす、するとギーシュの隣にボコリと穴が開き、そこからギーシュの使い魔であるジャイアントモール『ヴェルダンデ』が顔を見せた。 「ヴェルダンデが言うには、人間の作った洞窟…つまり、宝物を隠したダンジョンにある罠と、臭いが一緒らしい」 「威力は?」 タバサが短く質問すると、ギーシュはテレパシーのようなものでヴェルダンデに話しかける。 「…具体的には分からない、でも、ヴェルダンデは怖がっている。少なくとも半径30メイル(m)以内には近寄りたくはないらしい」 タバサが風の魔法で冷気を作り、細心の注意を払いながらロングビルの両手首に当つつ、呟く。 「爆発か、火の海」 キュルケは頭を悩ませた。 「それなりの威力の奴ね…あたしならともかく、ミス・ロングビルじゃ…」 火の使い手であるキュルケなら、自分の炎を使って、他者の炎から身を守ることも出来る。 しかしロングビルに同じ事をやれば、致命傷となる火傷を負わせてしまうだろう。 タバサも悩んでいた、レビテーションで体を浮かせ、風の魔法で炎から身を守ることは可能だ。 爆発と火炎の両方が仕掛けられていたら、体を浮かせている間に爆発してしまう。 強力な風でロングビル後と吹き飛ばしても、ロングビルの体からは箱が離れなければ、ロングビルを巻き込んで爆発してしまう。 キュルケとタバサは、罠ごと破壊することは出来ても、ロングビルを傷つけずに解除する方法が思いつかなかった。 二人が悩んでいると、ギーシュはヴェルダンデに何かを命令し、地面を掘らせた。 「ミス・タバサ、頼みがあるんだが…これから言う場所に、竜巻を作ってくれないか」 「ちょっとギーシュ、何のつもりよ」 「ロングビルを傷つけずに助けるのさ」 ギーシュの顔はヘラヘラしただらしのない笑顔でもなく、情けない軟弱者の顔でもなかった。 「ギーシュ、覚悟を決めるのはいいわ、でも貴方なら回りくどいことをしなくても練金で罠を解除できるのではなくって?」 「いや…聞いたことがあるんだ、持ち運びの出来る罠があるってね…仮にトライアングル以上のメイジが練金したものなら、僕には手出しできない」 そう言って杖を握りしめるギーシュに、タバサが質問する。 「規模は?」 「中心が真空になるぐらい…それと、僕たちを巻き込まないように範囲は狭く、高さは高くいほどいい」 タバサはこくりと頷き、普段よりもゆっくりと、真剣に魔法の詠唱を始めた。 しばらくすると、40メイル程離れた地面からヴェルダンデが顔を出した。 「良し!僕のかわいいヴェルダンデ、ちゃんと離れているんだよ!」 ギーシュが叫ぶ、するとヴェルダンデは地面をぴょこぴょこと歩き、離れた場所に穴を掘って待避した。 「ヴェルダンデが出てきた穴の空気を、できるだけ引きずり出してくれ!」 「……」 タバサは頷き、魔法を完成させた。 次の瞬間、ごうごうと音を立てて竜巻が現れる、ギーシュの望み通り天高くまで竜巻が伸びているのが視認できるほどだ。 「よし!『練金』!」 ギーシュは薔薇を模した杖を振って、練金を放った。 練金によってロングビルの上着が土になる、それと同時にロングビルの体の下から強い光が漏れた。 「爆発!?」 キュルケが光を見て身の危険を感じる、しかし次の瞬間にはズボボボという音と共に、光が地面の中に消えていった。 驚いてロングビルを見ると、ロングビルの倒れている地面が鉄格子に練金されており、その隙間には勢いよく風が流れ込んでいる。 「ギーシュ!何よこれ!」 「これでいい!これがイイんだ!」 ギーシュが叫ぶと、タバサの作り出した竜巻が爆発音と共に炎の竜巻に変わる。 キュルケが驚いて竜巻の方を見ると、竜巻の中心にある小さな『何か』が、すさまじい勢いで炎を噴出しているのが見えた。 タバサの氷塊混じりの竜巻に巻かれても、火勢は衰えない。 小さい罠ではあったが、その威力はかなり強いものだと理解できた。 しばらくすると、小箱から噴出する炎も止み、箱自体も燃え尽きて消えてしまった。 それを確認したキュルケは、倒れているロングビルを抱き起こす。 上半身は裸になっており、胸元に小さく火傷の痕がついていたが、ごくごく軽いものだと分かる。 タバサのシルフィードに乗せて学院まで急げば、命は助かるだろう。 「ギーシュ、やるじゃない」 「まあね…ば、薔薇の棘は、女性を守るためにあるのさ」 カッコつけようとしたギーシュだったが、鼻の下をものすごーく伸ばして、ロングビルの胸を見ている。 「ミス・ツェルプストー、ミス・ロングビルはこの僕が連れて行こう」 精一杯格好良くしているつもりだが、どう見てもロングビルの胸に視線が向いている。 それどころか薔薇を持っていない左手がワキワキと何かを掴むような動きをしていた。 そんなギーシュの真上に、タバサの使い魔シルフィードが突如現れた。 しなやかな尻尾がギーシュを叩くと、ギーシュは「オゲッ」っとうめき声を上げて10メイルほど吹っ飛んだ。 「女の敵」 タバサの言葉に、キュルケはうんうんと頷くのだった。 前へ 目次 次へ
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第六十二話 新造探検船オストラント号 すくらっぷ幽霊船 バラックシップ 登場! 六千年の間、国家間のいさかいやエルフへの遠征はあれど、平和と秩序を保ち続けてきた世界・ハルケギニア。 だがその平和は、突如この世界に襲来した異次元人ヤプールの侵略によって、無残にも砕け散った。 才人とルイズは、ウルトラマンAの力を借り、ヤプールの侵略を食い止め続けてきたが、時が経つにつれて予想も しなかった事態が起きてきた。ヤプールの侵略による混乱につけいるかのように、この世界の人間たちの中にも 不穏な動きを見せ始める者も現れたのだ。 虚無の力を狙い、何度も卑劣な攻撃を仕掛けてきたガリアの王ジョゼフ。かつて地球で、怪獣頻出期の混乱に つけいって多くの宇宙人が侵略をかけてきたように、彼の存在を皮切りにロマリアも動き出した。 ワルドを傀儡とした何者かの陰謀は撃破したものの、同時に多くの謎も残した。 誰が、何の目的を持って人間の怪物化をはかったのか? すべては闇の中に消えた。 代わりに残ったのはルイズの新たなる虚無の魔法の覚醒。瞬時に別空間への転移を可能にする呪文・テレポート。 完全に成功すると思われたワルドの計画を頓挫させたこの魔法は、さすがに伝説の系統にふさわしい驚異的な 効果を発揮した。だがその反面、連続する虚無の覚醒はこの世界に迫り来る暗雲の厚さをも想像させた。 地下に潜んで強大化の一途をたどる数々の悪の勢力、もはや躊躇している時ではないとアンリエッタは決断した。 ジョゼフや、まだ影もつかめない謎の勢力も確かに脅威だ。しかし彼らの暗躍する土壌となり、この世界を狙う 最大の敵はヤプールにほかならない。生物の邪悪な思念・マイナスエネルギーを糧とするヤプールのパワーアップを 止めるには、この世界で六千年間続いてきたエルフとの不毛な争いに終止符を打つしかないのだ。 アンリエッタは、現在唯一エルフとのつながりを持ち、なおかつエルフが潜在的に恐れている虚無への敵対心を 消し去れる可能性を持つルイズに白羽の矢を立てた。 しかし前途は険しい。エルフの大多数は人間を蛮人と呼んでさげすんでおり、その強力な武力を持って、ためらう ことなく攻撃を仕掛けてくるだろう。しかもエルフの国、いまだ人間が到達したことのないはるか東の果てに向かうためには、 通常の手段では不可能だ。 だがその不可能を可能にするため、現れたエレオノールとコルベールは希望の名を告げた。 「行かせてあげるよ君たちを、私たちの作った新型高速探検船『東方(オストラント)号』でね!」 エレオノールとコルベールの語る『東方号』とは何か? ハルケギニアを狙う、飽くなき邪悪の増長に反旗を掲げるために、人間側の逆襲が始まろうとしていた。 戦いの夜が明けて、ラ・ロシュールの街は最大最後の熱狂の渦の中にあった。この一ヶ月、トリステインで盛大かつ 華麗な婚礼の儀をあげてきたアンリエッタとウェールズ夫妻が、今日いよいよもうひとつの母国であるアルビオンへと旅立つのだ。 昨夜のウルフファイヤーとの戦闘はかん口令が敷かれ、一般大衆はほとんど知らない。豪奢に飾られたお召し艦が 桟橋を離れ、夫妻はその脇をカリーヌとアニエスに護衛されながら、見送りの人々へと感謝の手を振る。 「みなさまありがとう。アルビオンとトリステインの変わらぬ友好を築き上げるため、わたしたちは行ってまいります」 陽光を受けてきらびやかな輝きを放っているかのような夫妻の門出だった。見送る人々もそれを受けて、喉も 枯れんばかりの大歓声とともに見送る。桟橋の上には国に残る重臣や各国の大使、世界樹のほかの枝にも 一目見ようと多くの人々があふれ、世界樹の根元やラ・ロシュールの建物の屋上などにも手を振る人は尽きない。 しかし、その中にルイズたちの姿はなかった。そのころ才人、ルイズ、ティファニア、ルクシャナの四人はすでに街を 離れて、銃士隊の一個小隊とともに南へ向かっていたのである。目的地はラグドリアン湖の東方にある分湖の 対岸にある造船所街。ラグドリアン湖そのものは、ガリアとトリステインの関係を良好に保つためと、水の精霊への 敬意を込めて軍事施設等の建設は条約で禁止されているが、その奥にある河川や小さな湖は両国共に存分に 利用していた。 「着いたぞ、降りろ」 街の入り口のある馬車駅で、四人は乗ってきた馬車から降ろされた。ここでは軍備増強中のトリステイン空軍の 軍艦が続々と建造されているので、木材や鉄鋼を搬送する荷車や人夫でとてもにぎやかだ。最近では、先日の 観艦式でお披露目された巡洋艦なども、ここで建造されたものが数隻混じっている。 才人は、船台上でマストを立てられている軍艦や、道を荷車に載せていかれる大砲を見て感嘆の吐息を漏らした。 軍備は理想的な平和主義者からしたら悪の象徴と言われる。確かにそれは一端の真実であるのだが、この世には 他者のものを奪い取って恥じず、むしろそれを誇るような人間や国がいるのも事実だ。人間という生物の目を 逸らしてはいけない愚かしい一面だが、この世が完璧な理想世界とは程遠い以上、一定以上の軍事力は国家に とって必要とされる。 もちろん、戦力の拡充のしすぎは財政の悪化を呼び、守るべき国を戦争に駆り立てるという本末転倒な事態を 招く。なにせ軍隊とは一粒の米も、一滴の酒も生み出さない、いるだけで金食い虫となる存在なのだ。それを 防ぐためには、為政者の拡大の限界を見極めて手を引く冷静な判断力が必要となる。来年早々に女王となる アンリエッタの重要な課題となるだろう。 「やあ諸君、よく来たね。歓迎するよ」 「全員無事到着した。案内を頼む」 才人たちの降り立った馬車駅には、コルベールとエレオノールが先に来て待っていた。二人はラ・ロシュールで 才人たちにおおまかな説明をした後に、出迎える準備をすると言って竜籠で一足早く帰っていたのだ。 こちらの人員は、才人たち四人のほかは「ルイズたちの手助けをしてやってください」と、アンリエッタ直々に 命令を受けた銃士隊の一個小隊三十名で、指揮官にはミシェル。本来ならば近衛部隊である銃士隊の副長が 残るなどは考えられなかったが、アニエスとアンリエッタの二人の同時指名で決定されたのである。 なお、この人事を後で耳にしたとき、当初ルイズが渋い顔をしていたが、主君からの命令とあっては言いだてもできなかった。 そんな娘の様子を見て、母カリーヌは無表情の仮面の下で嘆息していたが、娘はむろん知る由もない。 コルベールとエレオノールの出迎えを受けた一行は、そのまま二人の案内で造船所内を進んでいった。 ここはトリステイン軍の直轄の施設なので、許可のない者は立ち入りできないために、さすがに奥に行くほど 物々しくなっていく。 ここで、例の『東方号』という船を建造しているのだろうか? 才人は立ち並ぶ数々の軍艦や輸送船を眺めながら 思った。王宮ではコルベールは「ここではどこで誰が聞き耳を立ててるかわからないからね」と、才人たちは『東方号』に ついてほとんど具体的な説明を受けていなかった。わかっていることは船名と、それが高速探検船という聞きなれない 別名を持つということだけ。 ルイズも、コルベール先生とエレオノール姉さまとは、なんとも珍妙な組み合わせだと不思議に思った。二人に接点が あるとすれば教鞭をとっていることと、アカデミーのつながりが思いつくけれど、二人が揃って仕事をしているとは知らなかった。 まさか、この二人できてるってことは……ないわねと、ルイズは姉に向かってけっこうひどいことを思うのだった。 さらに疑問を深めているのがルクシャナである。知識の虫である彼女は、サハラを越える能力があるという新型船とやらに 大いに興味をよせていたが、ここに来て尋ねても、コルベールは後のお楽しみだと教えてくれない。コルベールは自信満々な 様子だが、ルクシャナも人間への蔑視を完全に捨てたわけではない。これまで何百回、思いつく限りの方法を使って 攻めてきたくせに、一度もサハラを踏めなかった蛮人が作った船に、何十という障害と妨害を突破してサハラを越える という、前人未到の偉業をおこなえる力があるのか? 自然に才人やルクシャナは、表情に疑問の色が浮かんでくるのを抑えらなくなっていった。すると、教師としての 面目躍如か、敏感に彼らの不満を感じ取ったコルベールはようやく口を開いた。 「いや、もったいぶってしまってすまないね。どうも物事にいらない前置きをつけてしまうのは私の悪い癖だ。そのせいで 授業がつまらないと常々言われるのにねえ。サイトくん、私がいろいろな未知なるものを見たいと思っているということを 前に言ったね。だから私は手当たりしだい、あらゆる手段を使って未知を求め、さらなる未知へ挑戦しようと試みてきた。 その答えのひとつが、君の見せてくれた、あの”ひこうき”だ。あれほどのものは、我々の技術では到底つくれない。 しかし、私はあきらめたくなかった。そのとき、興味を示してくださったのがミス・エレオノールだった」 「ええ、私も正直あんなものは見たこともなかったわ。でも、一時は興奮したけど私はすぐにあれは再現不可能だと 結論を出したわ。それをこのハゲ頭ったら本気で自分でも作ろうなんて考えて……バカとしか言いようがないじゃない」 「はは、でもあなたが協力してくれなければ、私の夢はおもちゃで終わっていたでしょう。学者の本能というですかな?」 「勘違いしないで。婚約がふいになって、たまたま式の費用が浮いてただけよ」 エレオノールは、ぷいっと横を向いてしまった。こういうところはさすがルイズの姉だけあって、よく似ている。しかし、 まだ疑問の核心にコルベールは答えていない。東方号とは結局なんなのか? 知りたいのはそれだ。じらされて いらだつ才人たちに、コルベールははげ頭にわずかに残った髪をばつが悪そうにかいた。 「いやいやすまん。またまた悪い癖が出てしまった。しかし、もう一言だけ言わせてもらうとしたら、私はサイトくんの おかげでハルケギニアの外の世界をどうしても見てみたくなったのだ。そして、もう待ってもらう必要はないよ。なぜなら、 ここが目的地だからね!」 コルベールは足を止め、手を高く掲げて見せた。そこには、才人たちがまるで小人に見えるような巨大な建物が、 威圧するようにそびえていた。 しかし、それは単に大きな建物ではない。船を建造するための、造船施設の見せる氷山の一角に過ぎないのだ。 この中に『東方号』が……才人たちはごくりとつばを飲み込むと、コルベールに続いて施設に足を踏み入れていった。 天幕で覆われた、全長二百メイルほどの船台。他の軍艦や商船が建造されている船台とは明らかに様相が異なり、 外からは内部が一切うかがい知れないようになっている。しかも入り口にはラ・ヴァリエールのものと思われる私兵が、 入場者を厳しくチェックしており、軍艦並みの警戒厳重さを見せていた。 入り口で誰かが化けていないか、魔法で催眠にかけられていないかを検査されると、ようやく分厚い鉄ごしらえの 門が開いて一同を受け入れた。内部はまるで東京ドームのように広大で、一同はここでなにが作られているのだと 息を呑む。しかし内部は天幕のおかげで薄暗く、なにやら巨大なものが鎮座しているのはわかるけれど、全体像を 把握することはできなかった。 コルベールは一同にそこで待つように言い残すと、エレオノールとともに壁に取り付けられたなにかの装置の前に立った。 「待たせてすまなかったね。すでに艤装は九割五分完了している。本来ならば、一〇〇パーセントパーフェクトに なってから動かしたかったが、現在でも航行・戦闘ともに支障はないはずだ。さあ見てくれ、これが私の夢の第一歩であり、 君たちを運ぶハルケギニア最速の船、『東方号』だ!」 スイッチとともに天幕の中に白い明かりが満ち満ちる。一般に使われている魔法のランプの仕組みを大規模に したものであるらしいが、悪いけれどエレオノールのそんな説明は耳に入らない。才人たちの目の前には、想像を 一歩も二歩も超えた異形の船が鎮座していたからだ。 「こ、これは……船、なの?」 全容を眺めたルクシャナが思わずつぶやいた。彼女の知識層には、専門外の事例ながらエルフの艦船について おおまかに記録されており、人間たちが使う船についても文献で見てきたが、このような形式の船は初めて見る。 いや、正確に言えば船の形はしている。船首から船尾までの設計様式はハルケギニアでポピュラーな形式の 帆走木造船で、それだけ見ればなんの変哲もない。しかし異彩を放っているのは、舷側から大きく側面に張り出した 翼にあった。 通常、風石で浮力を得るハルケギニアの空中船は、地球の木造帆船に似た船体に鳥のような翼を取り付ける。 そのため地球育ちの才人などからすれば船と白鳥が合わさったような印象が持て、さすがファンタジーだと妙な 感想が出る優美な姿をしている。 だが、この船に取り付けられている翼は優美さとは無縁なものだった。地球の航空機のような直線と曲線でできた、 強いて言うならジャンボジェット機のそれに似た金属製の翼が取り付けられていた。差し渡しは一三〇メイルはあろうか、 エルフの世界にも鋼鉄軍艦は存在するけれど、こんな形の翼はどこにもない。 それだけではなく、その翼には後ろむきに明らかにプロペラとわかる巨大な装置が取り付けられていた。この翼に、 あのプロペラの形……才人の中にあった予想が、一瞬で確信に変わって口からこぼれ出る。 「先生! こいつは、おれのゼロ戦を!」 「ああ、そのとおりだ。この船は君が持ってきてくれた”ひこうき”を研究して、私なりに再現したものだ。従来の船では 風任せで、翼は姿勢制御くらいの役目しか果たせていなかったが、この船は違う。風石で浮遊するところは同じだが、 あの翼が巨大な浮力を発生させて風石の消費を抑えてくれる。そして、なによりも目玉があの両翼に一基ずつ 配置された”えんじん”から突き出た風車が、この船に圧倒的な加速を与えてくれるはずだ」 「すげえ……先生、すごすぎるぜ!」 才人はまさしく天才を見る目でコルベールに熱い視線を送った。あのゼロ戦一機から、こんな巨大な船を作り上げて しまうとは常人のなせる業ではない。 「いやあ、そうしてほめられるとむずがゆいというか……はは」 得意そうに笑うコルベール、そこへのけ者にされていたエレオノールが不満そうに割り込んできた。 「ちょっと、あなただけの功績みたいに言わないでちょうだい。この船の建造費に私がいくら出したと思ってるの? それに、 この船の翼を支えるための百メイル以上の鋼材の製作、私をはじめアカデミーのトライアングル以上のメイジが 何人がかり必要になったとおもってるの?」 「もちろん感謝しているさ。私はえんじんは作れても、船にはてんで無知だからね。設計図の製作から実際の建造まで、 下げる頭が万あっても足りない思いだ」 「ふん、あんたの頭を見てありがたがる人間がいたらお目にかかってみたいわ。まあ、アカデミーが全壊して、施設が 再建できるまで研究員たちを遊ばせておくこともないし、メカギラスやナースの装甲を研究した成果も試したかったから、 いい機会ではあったけどね」 なるほどと、ルクシャナは納得した。トリステインの冶金技術では、百メイルを超えて、なおかつ強度のある鋼棒の 製作はメイジの技術を持ってしても不可能だが、宇宙人のロボット兵器に使われていた超金属を研究して、それに 対抗できる金属の作成を前々から図っていたのか。 しかし、研究者であるルクシャナは二人の説明と東方号の外観から、すでにいくつかの疑問点を抱いていた。 「ところで、えんじんだっけ? あのでかぶつをどうやって動かすの? 見るところ、羽根の直径だけでも十メイルは ゆうにあるわ。あんなものを、推力を生み出せるほど回すには相当な力が必要なはずよ」 するとコルベールは、よくぞ聞いてくれたとばかりに満面の笑みを浮かべた。 「よい質問です。あのえんじんの中には、石炭を燃やす炉と、その熱量を使って水を沸かし、発生する水蒸気を閉じ込めて 強力な圧力を生み出す釜が入っています。羽根を動かす動力は、その圧力を利用します」 「水蒸気……そんなものを利用するの!?」 「なめたものではありませんよ。水を入れてふたをがっちりした鍋を火にかけると、やがて鍋をバラバラにするくらいの 爆発を起こす力が出るのです。本当は、ひこうきのえんじんに使われていた、油をえんじんの中で爆発させて圧力を得る 仕掛けのほうが小さくて済むのですが、機構が複雑で精密すぎて現在の私の技術では再現は無理でした。しかし、 この水蒸気式のえんじんでも、相当な力は発揮できるはずです。私はこれを、水蒸気機関と名づけました」 自信満面でコルベールは言った。しかし、ルクシャナはまだこの船には、どうしても聞かねばならない難点があることを見抜いていた。 「たいした自信ですね。でも、さっきから聞いていれば、あなたの説明はすべて”はずだ”ばかり。もしかして、この船は まだ一度も飛んだことがないんではないですか?」 「見抜かれたか、さすがアカデミーの逸材と言われるだけの方だ。ご明察どおり、この『東方号』はまだ飛行テストも おこなっていない未完成品だ。いや、本来ならば『東方号』と名づけるのは、この後の船になるはずだったのだ」 「つまりこれは、本来は新型機関を試すための実験船だった?」 「そのとおりだ。私たちはこの船を使って、あらゆる実験をおこない、そのデータを元にして完成品の東方号を建造する 予定だったのだ」 自信から一転して、苦渋を顔に浮かべてコルベールは言った。するとエレオノールも気難しそうな顔で東方号を見上げる。 「軍から先の内戦で姫さまをアルビオンにまで運んだ、高速戦艦エクレールの実戦データももらってるけど、それでも この船からすれば旧式に入るわ。なによりこの船は、建造期間の短縮をはかるために、船体は建造中だった高速商船の ものを流用してあるから、高速飛行をしたときに船体がもつかは未知数よ。それに、エルフの艦隊に迎撃を受けたとしたら、 当たり所によっては一発で沈没する危険もはらんでるわ」 ぞっとすることを言うエレオノールに、才人たちは思わず顔を見合わせた。しかしそれでもコルベールは言う。 「しかし現在、エルフの国に到達できる可能性が少しでもあるのはこの船しかない。姫さまは、その可能性を信じて 我々に指名をくださった。研究者としては失格かもしれんが、私も万全を待っていては手遅れになると思う。だから私は、 暖めていた『東方号』の名をこの船につけたのだ!」 断固として言い放ったコルベールの迫力に、才人たちはのまれた。研究者として、不完全な代物に教え子たちを 乗せるには相当な苦渋があったはずだ。恐らく、出撃を命じたアンリエッタとの間にも激論があったことだろう。 それでも動かすことを決めたからには、尋常な覚悟ではない。 「僭越ながら、私は船長としてこの船に乗り込む。その大役ゆえに、船が沈むときは運命を共にする覚悟で望むつもりだ。 ん? サイトくん、そんな顔をするな。それくらいの覚悟で望むということだよ」 からからとコルベールは笑って見せた。才人やルイズはほっとしたものの、いざとなったら殴り飛ばしてでもコルベールを 船から降ろす必要があるなと、別の覚悟を決めた。 新造探検船オストラント号……それはコルベールがハルケギニアの外にある、あらゆる未知への好奇心を形にした 鋼鉄のうぶ鳥。早産を余儀なくされたこの鳥が、見かけだけ派手で飛べない孔雀で終わるか、それとも大空を支配する フェニックスとなるかは誰にもわからない。 それにまだ、この船には飛び立つためにもっとも重要なものが欠けている。それをミシェルは指摘した。 「ミスタ・コルベール、あなたの決意のほどはわかった。しかし、これほど大規模な仕掛けを施された船を誰が動かすのだ? 機密保持のために空軍の水兵や一般の水夫は借りられない。ただ動かすだけなら、我ら銃士隊一個小隊三十名いれば 可能だろうが、未完成な船で戦闘航行しながら進むのはさすがに不可能だぞ」 強靭な心臓があって類まれな翼を持つ鳥も、体の中を流れる血液がなくては羽ばたくことはできない。そう言うミシェルに、 コルベールはそのとおりだとうなづいた。船は巨大で精密な機械だ。帆を操り、舵をとり、周囲を見張り、風を読み、 この船の場合は機関制御の複雑な工程も加わるので、三十人ではどうやりくりしてもギリギリだ。それだけではなく、 厨房で働く者もいるし、戦闘を不可避とすれば兵装を操り、魔法をぶっ放す戦闘要員がいる。しかもまだ終わらない、 負傷者を治療する者や損傷箇所を応急修理する要員も大勢必要だし、それらの人員が負傷したときに交代する要員もいる。 つまり、戦闘艦とはまともに運用しようと思ったら膨大な人間を必要とするのだ。たとえば百メートルをわずかに超える 程度の駆逐艦でも、乗員は二百名を軽く超える。この東方号はどう見積もっても、六十名から七十名の船員が必須となる。 銃士隊と才人たちでは半分しかいない。むろん、片道だけで生還を帰さないのなら別だが、これは特攻ではなく無事 到達して帰ってくることが絶対条件の作戦だ。 ところがそれをコルベールに問いかけようと思ったとき、コルベールはにんまりと笑った。そして、船に向かって手を上げると叫んだ。 「おーいみんな! もういいだろう、そろそろ出てきたまえ!」 「あっ! 先生、もう少しじらしてから出ようと思ってたのに。しょうがない……やあサイト、待っていたよ!」 「あっ、お、お前!」 聞きなれた声と、タラップからきざったらしくポーズをとって降りてきた金髪の少年を見て、才人は叫んだ。 「ギーシュ! それに、お前らも」 薔薇の杖をかざして現れた三枚目に続いて、船内から続々と現れた面々を見て才人やルイズは目を疑った。 レイナールにギムリ、水精霊騎士隊のメンバーたち。それだけではなく、モンモランシーや少年たちと懇意の少女たちもいる。 これはどういうことかと仰天する才人たち。ギーシュはその顔がよほど見たかったのだろう、得意満面で説明をはじめた。 「なぁに、簡単なことだよサイト。ぼくらも、姫さまから密命をいただいてここに参上していたのさ。事情はすでに聞いているよ。 ぼくら水精霊騎士隊の総力をあげて、君たちに協力しようじゃないか」 「姫さまが……てことはお前ら、この船がどこに行くのかも知ってるのかよ?」 「むろんさ。目指すははるかな東方、エルフの国。そちらの麗しいお嬢さん方がエルフだということも聞いているさ。 それにしても、エルフとはもっと恐ろしげなものだと聞いていたが、これはなんと美しい! お嬢さん、昨日は話す時間も なかったが、よろしければお名前など……」 「教えてもいいけど、あなた死ぬわよ」 「へ?」 ルクシャナの視線の先を追ったギーシュは、そこに大きな水の球を作り上げて、引きつった笑いを浮かべているモンモランシーを見た。 「ギーシュ、さっそくバラの務めとはご苦労なことね。し、しかも相手がエルフでもなんて、節操なしにもほどがあるわよ!」 「ま、待っ!」 言い訳は言葉にならなかった。魔法の水の球に頭を呑みこまれ、ギーシュはおぼれてがぼがぼともがいている。 いったいなにがしたかったんだあいつはと、彼の仲間たちはおろか、才人とルイズや銃士隊も呆れて助ける気も起きない。 しかしこのままでは話が進まないので、隊の参謀役のレイナールがあとを継いだ。 「やれやれ、隊長がお見苦しいところをお見せしてすいません。ま、サイトももうだいたい見当がついていると思うけど、 見てのとおり東方号にはぼくらがクルーとして乗船するよ。そのために、姫さまはぼくらに正式に水精霊騎士隊の称号を 与えてくれた。つまりぼくらは今やトリステインの正式な騎士だ。これで頭数は銃士隊の皆さんと合わせて七十人を超える。 定数は十分満たすはずだ」 「お前ら、だが!」 これは今までとは危険の度合いが違う。それがわかっているのかと才人は叫びかけた。だがレイナールは才人の 言葉を手をかざして防ぎ、ギムリとともに言った。 「おっとサイト、やぼは言わないでくれよ。世界が消えるって瀬戸際だ。それにぼくらは元々貴族、いざというときの覚悟は できている。それに第一、もしも君がぼくらの立場でも同じ事をしたはずさ。友達だものね」 「危ない橋だったら、もういっしょに何度もわたってきたじゃんか。二度も三度でもピンチには杖を持って参上するのが、 貴族の責務であり名誉だぜ。な、戦友」 「っ! お前ら」 才人は騎士隊のみんなの友情に、才人は感動のあまり目じりをぬぐった。困ったときに助けに来てくれる奴らこそ、 真の友だというけれど、こいつらはまさに真の友だ。 涙を流す才人に、三途の川を渡りかけているギーシュ以外は誇らしげな笑みを送った。 が、ここまでであれば美しい友情物語でしめられたものを、ギムリが余計な口をすべらせた。 「うむ、サイトにだけいい思いをさせ続けるのは不公平だし、それに我々水精霊騎士隊にはギーシュ隊長のほかは まだまだ独り身が多い。この機会を逃すわけにはいかないからな」 「は?」 涙が一瞬で枯れて、後悔が怒涛のようにやってきた。なるほど、騎士隊の男たちの視線を注意深く追っていくと、 かっこつけている端で銃士隊のうら若い肢体に向いている。熱血展開で忘れていたが、青春とは思春期のことでもあった。 「なるほどな。お前らの本音がよーくわかった。人をだしに使いやがって、なーにが友情だ、この野郎ども」 「うっ! し、しまった。つい口が!」 「ギムリ! ご、誤解しないでくれよサイト。姫さまから命令があってぼくたちが参上したのは本当さ。それに、 君たちの助けになりたいのも嘘じゃない。ぼくらが何度も肩を並べて戦った、あの思い出を忘れたかい?」 必死に弁明するレイナールや、その後ろでかっこよさを失っている騎士隊の連中を、才人たちは白い目で見つめた。 銃士隊の子女たちはさっそく身の危険を感じて敵意のこもった視線を返しているし、特にルイズはゴミを見る目つきで、 睨まれている男たちのプレッシャーはハンパなものではない。 「まったくもう、あなたたちの頭の中身は全員ギーシュと同レベルね。それでここまで来るとは恐れいるわ。でも わかってるの? 銃士隊は平民の部隊なのよ。あなたたち貴族の自覚あるの?」 「なにを言ってるんだい、サイトは平民だけどルイズやおれたちとずっと前から対等だったろう。君はいまさら昔の事を むしかえすつもりかい?」 「そうそう、美しい婦女子に身分の差など……もとい、それに姫さまはぼくらに対して、貴族と平民のかきねを壊してくれと お命じになられたのだ。魔法衛士隊の中にはすでに彼女たちと交際を持ち始めている者もいるそうだ。よってぼくらが 銃士隊と対等に肩を並べても、なんら問題はない」 「視線が泳いでるわよ、お題目は立派だけどごまかそうとしてるのが見え見えじゃないの」 女の勘はごまかせなかった。少年たちを見る目がさらに冷たくなり、射殺されそうなくらい痛くなる。 それでもレイナールやギムリはまだましなほうだったかもしれない。さらに不幸なのは、ギーシュのほか数名いる 彼女を連れてきた少年たちだ。彼氏と危険を共にするロマンチックな夢を抱いていた彼女たちは、殺意すらこもった 目つきで、震える手で杖を握っている。 まさに四面楚歌、このままほっておけば水精霊騎士隊の少年たちは視線の圧力で押しつぶされて消えたかもしれない。 そこへ、ミシェルがため息混じりに告げた。 「ふぅ……だが猫の手も借りたい今、貴重な頭数であることに違いはないか。お前たち、半端な覚悟ではつとまらんぞ。いいか!」 「は、はい!」 よどんだ空気を吹き払う一喝に、少年たちは本能的に従った。この威圧感はさすがアニエスの右腕を勤めるだけのことはある。 ミシェルはさらに部下たちに、「せいぜい小間使いができたと思ってしごいてやれ」と、命じた。そのとき彼女たちが「了解」 という一言と共に浮かべた冷徹な笑みに、浮ついた気持ちでいたギムリたちは背筋が凍りついた。 それを見て才人は、こいつらこれから大変だなと、同情的な視線を送った。銃士隊はそこらの女性とわけが違う。なめて かかれば並の男など食い殺してしまう強さを持っている。きれいな花にはとげがあるぞ、まあ自分たちで選んだ道だから、 誰を恨みようもないことだが。 ただ、才人はそう思いながらも、ギーシュたちを悪く思ってはいなかった。 ”お前らはほんと昔から少しも変わってないな。そういえば、トリスタニアの王宮で寄せ合い騎士ごっこの水精霊騎士隊が できて戦ったときも、銃士隊といっしょだったっけ。あんときも中途半端にかっこつけて、けっきょく決まらなかったんだよなあ” 戦友たちとの思い出は、才人にとってもかけがえのないものだった。 王宮でバム星人と戦ったとき、ラグドリアン湖でスコーピスと戦ったとき、学院がヒマラとスチール星人に盗まれてしまったとき。 どれも今思い返せば懐かしい。死闘だったこともあれば、バカバカしかったこともある。けれど、どのときもギーシュたちは 自分を身分の違いなど関係なく、仲間として向き合ってくれた。そして今回も、動機の半分は不純ながらも危険を顧みずに 駆けつけてきてくれた。 こいつらとなら、またおもしろい冒険ができるかもしれない。そう思った才人は、笑いをこらえながらギムリたちに言った。 「よかったなお前ら、トリステイン有数の騎士のみなさんにしごいてもらえる機会なんてそうはねえぞ」 「サイト! 君せっかく来てやったのにそれはないんじゃないか」 「むしろおれがついでのくせによく言うよ……けどま、考えてみりゃずいぶん久しぶりじゃねえか? 水精霊騎士隊が 全員集合するなんてよ」 不敵に笑った才人に、ギムリやレイナールははっとしたように思い返した。 「そうか、言われてみればおれたちが全員そろってなんて随分なかったな」 「おいおい、それもこれもサイトが自分ばっかりで冒険に行ってるからだろ。おかげでこっちは平和でいいが、退屈で 仕方がなかったんだぜ。でも、今回はおいてけぼりはなしだよ」 「わかってるって、しかも今回は世界の命運がかかった大仕事だ。頼りにしてるぜ、戦友たち!」 ぐっと、握りこぶしから親指を突き出すポーズをしてみせた才人に、ギムリとレイナール、それに水精霊騎士隊の 仲間たちはそれぞれ同じポーズをとった。 「おう! まかせとけって」 死線をさまよっているギーシュ以外の全員が、才人に応えて叫んだ。 その熱血な光景に、ルイズやモンモランシーはこれだから男ってのは暑苦しくていやねと思い、ティファニアは 男の子ってみんなこうなのかなと、間違った認識を持ち始めていた。 でも彼らは真剣だ。真剣におちゃらけて、ふざけて、世界を救いに行くつもりなのだ。 そんな規格外のむちゃくちゃな騎士隊がほかにあるだろうか? 銃士隊の隊員たちは、自分たちも常識外れの 軍隊だけど、それ以上がいるとは思わなかったと呆れた。だが同時に、トリステイン王宮以来となる彼らとの共同戦線が なかなか面白いものになりそうだと、悲壮な決意の中に楽しさの予感を覚え始めていた。 とてもこれから、一パーセントの生還率も認められない死地に赴こうとしている者たちには見えない。ルイズたちは 呆れるが、男同士の友情は暑苦しさがあってなんぼなのだ。その熱気は伝染し、コルベールやエレオノールも苦笑を 浮かべ、ミシェルはこれも才人の人を変える力なのかなと思った。 「サイトには関わった人間をよい方向に変えていく力があるのかもしれないな。お前の前では、貴族だとかなんとか、 いろんなかきねがどんどんどいていく」 どこの国の人とも友達になろうとする気持ちを失わないでくれ……ウルトラマンAの残した精神が才人の中で 息づいているのを彼女は知らない。けれど、その優しさがあるからこそミシェルは才人のことが好きであり、そのおかげで 自分以外の人を救い、愛することを思い出すことができた。 そして今、自分はそれらを与えてくれた人を助けるために共に旅立とうとしている。本来ならば許されないことのはずだが、 それを命じたときにアニエスとアンリエッタはこう言ったのだ。 「ミシェル、これはトリステインはおろかハルケギニアの命運を左右する重要な任務だ。私や烈風どのが姫さまから 離れるわけにはいかん以上、指揮官の適任はお前しかいない……というのは建前だが、いいかげんサイトといっしょに 冒険する特権をミス・ヴァリエールだけに独占させておくことはあるまい。お前はもう充分すぎるほど働いた。そろそろ 自分の幸せに貪欲になっても誰も文句は言わんころだ。対等な立場で、思いっきり勝負して来い!」 「そうですわよ。ルイズがわたしの親友だからって遠慮することはありません。誰が誰を好きになろうと、それは 自由ですもの。いってらっしゃいなさいな、でないと一生悔いが残りますわよ」 はてさて、世界の危機も利用する姉バカと、小悪魔根性を発揮するアンリエッタにも困ったものである。けれども、 こうでもしなければ才人の気持ちを思うあまり、ルイズに遠慮して一歩引いてしまうミシェルはいつまでたっても 幸せをつかめないだろう。不謹慎にも思えるアニエスとアンリエッタの胸中には、それぞれ妹を思うが故と、自分と 同じ愛に生きる者への激励が込められていた。 だが、それでもミシェルは逡巡した。 「でも、サイトはミス・ヴァリエールのことが好きです。私の思いはもう伝えました、今さらあの二人の間に余計な 亀裂を入れたら、恩を仇で返すことになってしまいます。私は今のままで、十分幸福ですから……」 恋に臆病というよりも、愛してしまった人の幸せを思うがゆえの苦渋、しかしアンリエッタは言う。 「ミシェルさん、サイトさんの幸せを第一に思うあなたの心は、とても純粋で尊いものですわ。でも、待ってるだけでは 恋は実りませんわ。サイトさんがルイズのことを好きなら、あなたはサイトさんの”大好き”をもぎとってみなさい。 明日の幸せは、自分の力で勝ち取るものですよ」 ウェールズとの、障害に埋め尽くされた恋路を一心不乱に駆け抜けてきたアンリエッタの言葉は虚言ではなく重かった。 それに、これはルイズのためでもある。恋人はゴールではなく通過点に過ぎない。恋が恋のままで終わるか、 愛に昇華するかはこれからの二人次第。それに気づかないままでは、いつか取り返しのつかない破局を招くだろう。 だからこそ、悔いを残さぬように思い切りぶつかってこい……誰がなんと言おうと、人生は一度きりしかないのだから。 けれどミシェルは、命令は受諾したものの、最後まで二人の応援に「はい」とは言わなかった。しかし彼女の胸中には、 アンリエッタの言葉によって、新しい胸のうずきも生まれ始めていた。 ”サイトはミス・ヴァリエールが好き……でも、わたしがもっと好きになってもらう。そんなこと、考えたこともなかった” できるのか? そんなこと、怖くて今は考えることはできない。けれど、才人が好きだという自分のこの気持ちは消せない。 だったら、才人とともに旅することでその答えを見つけに行こう。 ミシェルは、自分についてきてくれた三十人の仲間を振り返った。自分は彼女たちの命も預かっている。けれど同時に 彼女たちも自分の思いは知っている。きっと、困ったら手助けするようにとアニエスから密命もくだっていることであろう。 まったく、おせっかいな姉や仲間を持ったものだとつくづく思う……でもそれが心地よい。 およそ二十年の人生の中で、半分の十年は暗闇のふちにいた。そこから光の中に引き上げてくれたあの人に わたしは恋をして、ずっとそばにいたいと願っている……偽らざる思いを胸にして、ミシェルは才人から送られた ペンダントのロケットをぐっと握り締めた。 ”サイト、お前と歩む未来をわたしも欲しい。もしも、これに肖像画を入れることがあるとしたら、それはわたしとお前、そして……” 目をつぶり、未来にミシェルは夢をはせる。からっぽのロケットを満たす絵に描かれているであろう、幸福に満ちた笑みを 浮かべた自分と才人と、顔も知らないもうひとり。へその上から腹をなで、ミシェルはこの旅に必ず生きて帰ろうと誓った。 若者たちの思いはつながり、彼らを乗せてはばたく翼はついに全容を現した。 新造探検船オストラント号……その翼はいまだ未熟であり、乗り込むクルーたちも未経験の若者ばかりだ。 しかし彼らの士気は旺盛で、死を覚悟しても生還をあきらめている者はひとりもいない。むしろお祭り気分でちょっと 行ってくるかという気軽さの者たちが半分だ。 エルフとの和解、それがどんなに困難でもヤプールの邪念からハルケギニアを救う方法はほかにないのだ。 だが、ヤプールの先を超して行動しようとする彼らの思惑に反して、ヤプールは次段の作戦を着々と進めていた。 時空を超えて位置するもうひとつの宇宙。才人の故郷、地球。 このころ怪獣軍団による全世界同時攻撃による混乱も収まって、世界は一応の平穏を取り戻していた。けれど いつまた襲ってくるかわからない敵に対し、各国GUYSは油断なく警戒を続けていた。 そして、場所は中部太平洋ビキニ環礁。その海底深くにおいて、世界の海を守るGUYSオーシャンは、数日に渡って 捜し求めていた獲物をとうとう追い詰めていた。 「隊長、ソナーに感あり。でかい……ターゲットに間違いありません。現在北東に向かって速力十二ノットで移動中」 「ついに姿を現しやがったか。ここのところ世界中の海で船舶消失事件を起こした犯人が」 GUYSオーシャンの移動司令部である、大型潜水艦ブルーウェイルのブリッジで、隊長の勇魚洋は獲物を見つけた サメのように笑みを浮かべた。 怪獣軍団の攻撃が終わって間もなく、大西洋、地中海、インド洋、太平洋を問わずに大型船舶が突如SOSとともに 消息を絶つという事件をGUYSオーシャンは調査していた。事故現場の位置と時間から規則性を割り出し、次は このビキニ環礁に現れるだろうと網を張り、見事補足に成功したのだ。 「隊長、攻撃しましょう!」 「待て、まだ敵の正体がわからん。全センサーを使って敵の正体の解明につとめろ、アーカイブドキュメントへの検索も 忘れるなよ」 深海は地上よりもはるかに過酷な世界だ。慎重に慎重を重ねて悪いことはない。勇魚の指示で、海のフェニックスネストとも いうべきブルーウェイルの機能が働き、結論が勇魚のもとに示された。 「敵からMK合金のものと思われる磁場が放出されています。同時に数百万トン規模の金属反応も、これはドキュメントUGMに 記録にあるバラックシップと同じものと思われます」 「バラックシップ……あの強力な磁力で船を引き付けるやつか。ならシーウィンガーでの接近戦は危険すぎるな。ならば、 魚雷発射用意だ!」 ブルーウェイルの魚雷発射管が開き、対怪獣用の大型魚雷が放たれる。敵は強力な磁力を発する怪物だ。その 特性上、金属でできた魚雷は絶対に当たる。魚雷は一直線にバラックシップへ向けて吸い込まれていく。 全弾命中! 勇魚たちがそう確信した瞬間だった。 「これは! て、敵の反応消失……魚雷、すべて通過しました」 「なに! どういうことだ?」 「わかりません。突然、突然ソナーから消えたんです」 GUYSオーシャンの戸惑いをよそに、海底は何事もなかったかのような穏やかさを取り戻した。 しかし、この事件がやがてもうひとつの世界に大変な災厄をもたらすことを、このときは誰も知らない。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第69話 許す心 救う心 殺し屋宇宙人 ノースサタン 登場! 無人の小村を舞台に、アニエス、キュルケのコンビと、殺し屋宇宙人ノースサタンの 戦いが始まろうとしていた。 「ちょうど人もいないことですし、存分に暴れられますわね。さぁーて、木っ端微塵に して差し上げましょうか」 「いや、できるなら生け捕りにしてヤプールの情報を吐かせたい。もっとも、素直に 聞くとも思えんし、第一人間の言葉が理解できるかどうかもわからんから、手足の 二、三本は叩き切らせてもらうか」 宇宙人を相手にしているというのに、キュルケとアニエスには少しも恐怖した様子はない。 いや、彼女たちのそれはもはや不遜とさえいってよかっただろう。二人は、同時に 杖と剣の切先を星人に向けて、戦いの合図とした。 「いくぞ!」 先陣を切ったのは、その猫科の動物のような瞬発力を持って駆け出したアニエスだった。 脚力にものをいわせ、キュルケが抜け駆けをとがめる暇もないままに、長刀を星人に 振り下ろしていく。 だが、ノースサタンは命中直前に、普通の動体視力なら反応すらできないその 攻撃を、バックステップでかわすと、そのまま鋭い爪をかざして逆襲に転じてきた。 「ちっ!」 とっさに爪の一撃を剣ではじくが、ノースサタンはアニエスに剣を構えなおす 隙すら与えないというように、連続で爪やパンチを繰り出してくる。こうなると、 大剣のアドバンテージも、振りと返しが遅い分アニエスが不利に働く。 「身のこなしなら、前のツルクセイジンとかいうやつより上だな」 アニエスは苦々しげに毒づきながらも、鋭い目で剣の合間から反撃の 機会をうががっていた。しかし、星人は予想以上に身軽で、剣を盾代わりにして なんとか攻撃はしのいでいるものの、接近しすぎてしまったために、 ちょっとでも受身を緩めたら爪が肉に食い込むのは見えていた。 ノースサタンは、殺し屋宇宙人と異名を持つだけに、標的を抹殺するための 宇宙拳法を極めており、スピードと一撃の破壊力ではツルク星人以下だが、 小回りが利くために、さしものアニエスでも密着されては分が悪かったのだ。 しかし、ここで抜け駆けされて頭に来ていた目立ちたがり屋が乱入してきた。 『ファイヤーボール!』 キュルケの放った火球がノースサタンの右側面から襲いかかって爆発した。 万一アニエスに当たっては大変なので、ホーミング性を重視して、威力は 最低にまで落としてあるが、それでも一瞬隙を作って、アニエスがノースサタンの 間合いの外にまで逃れる時間を作ることができた。 「貸し一個、ね」 「ふん」 したり顔のキュルケに、アニエスは不愉快そうに唇をゆがめたが、視線は 敵から離すことはなく、剣を接近戦から中距離戦に向くように構えなおした。 一方で、キュルケは意気揚々として次なる攻撃を準備する。 「こういう接近戦主体の敵は、離れて戦うのがベストですわよ」 「……」 次は自分の番とばかりに、キュルケは再び『ファイヤーボール』を放った。 アニエスは、それをじっと見守っていたが、放たれた火の玉を星人が 軽く回避して、魔法発射の隙をつき、猿のように敏捷に逆撃しようとしてくるのを、 彼女の前に立ちふさがって、大振りで星人を押し返した。 「一個、貸し返却な」 「早っ!」 「敵を見た目だけで判断するな。メイジ相手の刺客に、その程度の魔法が 通用するはずがなかろう。それに、まだどんな武器を隠しているかわからんぞ!」 アニエスは、これまでの宇宙人との戦いから、こいつらにハルケギニアの 常識が通用しないことを学んでいた。そして、その経験は結果的に彼女たちを 救うことになった。再び間合いをとったノースサタンの口から、白い煙が 噴き出してきたかと思った瞬間、二人は反射的にその場を飛びのくことができたのだ。 「これは、含み針か!?」 二人がさっきまで立っていた場所には、釘ほどの大きさがある針が無数に 突き刺さっていた。それが、星人の口から煙に紛れて吐き出されてきたのだ。 まさに間一髪、回避がちょっとでも遅かったら、二人ともハリネズミのように されていただろう。 「なんとまあ、殺し屋らしい武器ですこと」 『フライ』で、高速移動するキュルケを追うように、含み針がすぐ後ろの 地面に深く突き刺さっていく。むろん、アニエスもうかつに近寄れずに、 自分に向かってくる針攻撃の回避に専念している。ちなみに、たかが 針だとあなどってはいけない、たとえば鋭く尖らせた鉛筆でも、喉や心臓に 打ち込めば人を殺せるし、それ以外の場所に当たったとしても、体内の 動脈などを傷つけられれば出血多量で死に至らしめることができる。 「これじゃ魔法を練る時間もありませんわ。姑息な武器を使ってくれますこと!」 「馬鹿め、武器なんてものは相手を殺せればいいんだ。無駄口叩くくらい ならさっさと逃げろ」 「ああら、誰に向かって逃げろなんて言ってるんですの? あなたこそ 近寄れもしてないではないの」 毒づきあいながらも、二人は際限なく撃ち出される含み針の攻撃を かわし続けた。地味に見えるが、この含み針という武器はかなりやっかいで、 煙に隠れて撃ち出されるために、平均以上を誇る二人の動体視力でも 見切ることができないし、散弾のようにくるために剣ではじき返すことも、 魔法でも全部を一度に止めきることはできない。 けれども、不利だからといって逃げ腰になったりはせずに、むしろ闘志を 奮い立たせるのが、この二人に共通する特徴であり、ある意味では人間社会に 争いが絶えない救いがたい一面であるのかもしれなかったが、それゆえに 今の状況は、その素質を必要とした。 二人は、間断なく撃ちかけられる含み針の攻撃を、間合いを遠くとって 余裕を作ると、互いに一瞬だけ目を合わせて、それからはまるで入念に 打ち合わせをしたかのように、アニエスを前に、キュルケを後ろにして 突進していったのだ。 もちろん、直線的な攻撃はノースサタンから見れば標的が止まっている も同然なので、表情をもたない顔面を笑うように上下に動かしたあと、 含み針を一気に吐き出してきた。 が、それこそ二人の狙いであった。 「ここだ!」 アニエスは、ノースサタンの口から白い煙が吹き出てきたと見た瞬間、 背中に羽織っているマントを外して、体の前に振りかざし、同時に キュルケがマントに『固定化』の魔法をかけた。これにより、鉄糸で 織られたに等しい強度を一時的に受けたマントは、含み針を先端が数ミリ 突き出る程度で、次々と受け止めた。 確かに、薄布でできたマントでは鋭い含み針の先端をそのままでは防ぐことは できない。だが、布というのは張り詰めれば弱いが、固定せずに浮かせた 状態では、衝撃を吸収してしまって意外な強度を発揮する。 「いまよ!」 含み針を全て受けきって、間合いを一気に詰めたアニエスは、マントを 振り払うと、虚を突かれて立ち尽くす星人にむけて、渾身の力で剣を、 裂帛の気合と、怒涛のような叫び声とともに現実の破壊力として振り下ろした。 そして半瞬後、ノースサタンの胴体に右肩から左腰に渡って赤い血しぶきが 吹き上がり、星人の悲鳴が響き渡ったとき、キュルケは彼女らしい快活さで喝采を上げた。 「やったわ!」 まさに、あざやかなチームワークの勝利だった。俊敏な星人を倒すためには、 至近距離から重い一撃を食らわせるしかないが、近づくまでにサボテンに されてしまう。それならば、なんとかしてアニエスを星人に近づけるまで キュルケが防御するしかない、彼女たちはなかば本能的に自らが果たす 役割を考えて、それを実行したのだった。 「まだだ、油断するな」 傷口を押さえてよろめくノースサタンにも、アニエスはまだ警戒を解いては いなかった。ヤプールの刺客ともあろうものが、この程度のことで簡単に 死ぬとは思えない。その証拠に、突然ノースサタンの体から紫色の煙が 噴き出してきたかと思うと、奴の体を包み込んで、そのまま天にも届くかの ように高く立ち上っていった。 「これは……いやーな予感がしますわね」 「引くぞ!」 危険を悟ったアニエスはためらわずに踵を返して走り出した。もちろん かつてテロリスト星人の例を見ていたキュルケも冷や汗を流しながら 後を追う。 そして、彼女たちの予感は見事なまでに的中した。 地上一〇〇メイルばかりに立ち上った紫色の煙の中から、全長五八メートルに 巨大化し、姿かたちも全身緑色のさらに鋭く凶悪な悪魔のような容貌となった ノースサタンが、まるで怪獣のような遠吠えをあげて現れたのだ! 「あちゃー、かんっぺきに怒らせちゃったか、どうします隊長どの」 怒り狂ったノースサタンが、踏み潰してやろうと地響きを立てて向かってくるのに、 あまり緊張感をもっていないような口調でキュルケが言うと、アニエスは彼女とは 反対に勤勉な口調で返した。 「全力で逃げるぞ、サイトたちとは反対方向にな」 「ですわね」 二人とも、この危急にあっても冷静さは失っていなかった。巨大化した星人には、 もう自分たちの力では太刀打ちできないが、彼女たちの目的は星人を足止め して才人やミシェルたちを逃がすことにある。その目的さえ達せられれば、 別に星人を今倒す必要性はない。 ただ、殺し屋宇宙人から逃げ切るのは、簡単ではなさそうであった。 ノースサタンをはじめとするドキュメントMACに記録されている宇宙人たちの 多くは、巨大化すれば姿形はまったく変わってしまうが、ツルク星人は両腕の剣、 カーリー星人は両肩の角、フリップ星人やバイブ星人は分身能力に透明化能力と、 その特殊能力までは変わることはない。 つまり、ノースサタンも最大の武器である含み針の能力を失っていなかった。 等身大のときと同じく、口から真っ白な煙と共に吐き出されてきた無数の光るとげ、 それらは空中で人間の背丈ほどもある巨大な槍に変化すると、キュルケとアニエスの すぐそばの地面に、一本一本がタバサのジャベリンさながらに突き刺さったのだ。 「なっ!」 キュルケの口から驚愕のうめきが漏れた。すぐそばの木は、含み針の槍が 貫通して真っ二つに裂けてしまっている。こんなものを人間がまともに食らえば、 百舌鳥のはやにえのようにされてしまうだろう。 彼女はアニエスの顔をのぞき見たが、逃げる以外にどうしろとと、救いのない 返事を返されて、文字通り槍の雨の中を右へ左へと回避し続けた。 巨大化したノースサタンの姿は、戦いが早期に展開を変えてしまったために、 まだ村からさして距離をとっていないルイズたちからもよく見えていた。 「たった二人で、ウチュウジンを巨大化させるまで戦うとは、さすがね」 ルイズにとって、キュルケやアニエスはそんなに仲がよいというわけでは なかったが、その実力は正統に評価しているつもりだった。特に、単なる 魔法や剣の技量というわけではなく、それを使いこなす柔軟な思考と闘志の バランスのとれた、完成度の高い戦士ということは尊敬にも値した。ルイズの 知る限り、彼女たち以上に知勇の均衡のとれた戦士は、タバサを除けば一人 しか存在しない。 しかし、いくらあの二人といえども、巨大化した星人に対しては抗する 術はないだろう。タバサとシルフィードがいれば、まだ話は別だろうが、 追われながらでは策を弄する暇もできない。 「ミス・ロングビル、追っ手をかわすために二手に分かれましょう」 一つのことを決意したルイズは、ロングビルにそう告げると、返事を 待たずに森の別方向に駆け出した。後ろから、ロングビルの叫ぶ声が 聞こえてくるような気がしたが、もう彼女の耳には届かなかった。 やがて、ロングビルが完全に見えなくなり、追ってもこないことを確認すると、 眠り続けている才人を背中から降ろして、顔を覗き込んだ。 「醜い顔ね……」 これなら、まだ自分がせっかんしたほうが人間らしい顔を残していると、 ルイズはなんともいえない笑みを口元に浮かべた。けれども、それは 決して醜さがおかしくて笑ったわけではない。むしろ、おかしかったのは 自分のほうであった。 もし、鏡を見て見たとしたら、そこには傷一つないきれいな自分の顔が 映るだろう。しかし、心貧しき者にとって、美とは宝石のものを超えることはなく、 その先にあるものに気づくことはない。だけれども、誇り高い心を持つルイズは、 人のために傷つき血を流した者に対して、シルクの手袋で握手をしようとは 思わなかった。 「あんたは、自分の正義を守るために命を懸けた。けど、わたしはあなたに…… あなたの主人としてふさわしい、つりあえる人間なのかしら……」 ルイズという人間の、誰にも否定させない美点をあげるとすれば、それは 常に自分自身を高めようとし、そのための試練を拒否しないことであったろう。 このときも、彼女は自分の精一杯を出しきって倒れた才人に対して、ならば 自分がむくいてやる方法はなんなのかと、自問していた。 振り向くと、ノースサタンは怒りのままに含み針での連続攻撃を続けている、 いくらあの二人が強くても、あれではあと数分も持たないだろう。 「もし、あなたが目を覚ましていたら、間違いなく皆を星人から守るために 奮闘したでしょうね」 小さくつぶやきながら、ルイズはハンカチで才人の顔をぬぐった。 彼女は考える。今、星人に襲われているアニエスやキュルケたちを救える 方法を、自分は持っているが、それは自分自身の力ではなく、彼女のプライドは 人に頼ることを拒否する。それは、人として立派なことではあるだろう。けれど、 才人だったら言うだろう。 「人の命より、大切なものなのかそれは?」 失われた命は二度と戻らない。たとえ不愉快な連中であろうと、死んでしまっては ケンカもできない。だったら、今は屈辱、いや、自己満足を捨てて、手を伸ばして 助けを求めよう。そう決意したとき、ルイズと才人のウルトラリングが一筋の光を放った。 「わたしには、今は力はない。けど、あなたの心には応えたい。だから、力を 貸して! ウルトラマンA!!」 ルイズの小さな手が、才人の泥と血で汚れた手を掴んだとき、まばゆい 閃光が二人を包み、天に向かって駆け上り、今まさに疲労して膝をついた アニエスに向かってとどめの含み針を吹きつけようとしていたノースサタンの 前に立ちふさがった! 「デャァッ!!」 宇宙の悪魔の前に、光の巨人が立ち上がり、これ以上の暴虐は許さないと、 戦いの構えを取る。光と共に出現したウルトラマンAに、ノースサタンは一瞬 ひるんだが、すぐに凶暴な本性を呼び戻してエースに含み針を吐き出した。 「ヌゥン!」 仁王立ちするエースの体に、次々と含み針が突き刺さる。エースの身体能力から すれば、回避も不可能ではないが、そうすれば後ろにいるアニエスたちに当たってしまう。 たちまちハリネズミのような姿にされるエースに、彼女たちの悲鳴があがるが、 今のエースにこの程度の痛みなどは関係ない。 「デャァッ!!」 気合と共に、エースは全身の含み針をすべて吹き飛ばした。今度こそ、ノースサタンは 後ずさりをし、力の差を思い知る。かつてはレオをダウンに追い込んだほどの威力を誇る 武器だが、ベロクロンのミサイルを立ったまま受け止めたエースには通じない。いや、 それ以上に、今のエースには力がみなぎっている。 (ありがとう、エース、わたしの言葉に応えてくれて) (いいや、君と、才人くんの心が一つになったから、私も応えることができた。力を使う ことの意味を、これからも忘れないでくれ) いまだ、才人が意識を取り戻していないなかで、精神世界でルイズはエースと、 初めて一対一で話していた。 けれど、人間と合体したウルトラマンは、変身するためにはその人間の純粋な 強い意思がかかせない、中途半端に力を求めるだけでは、ウルトラマンは答えない。 今回は、才人の願いをルイズが理解し、彼の願いを引き継いで、二人の心が 一つになったからこそ、才人が意識を失ったままでも変身することができたのだ。 力は、誰かのために使ってこそ価値がある。今はまだルイズの中には迷いが あるが、迷うことは悪いことではない。むしろ、迷うからこそ人間には成長がある。 それに、エースは才人の中に、これまで兄弟たちが地球人とともにつむいできた ものが、確かに息づいていることを改めて確認して、それがルイズたちにも 伝わっていくことがうれしかった。 だからこそ、そのかけがえのない一歩の成長を大事にするためにもエースは負けられない。 「ヘヤァッ!」 エースとノースサタンが正面から組み合い、大地を揺るがす激戦が開始される。 ストレートキックの一撃がノースサタンの腹を打ち、下から打ち上げるチョップが 顔面を打つ。 しかし、含み針が通用しなくなったとはいえ、ノースサタンも宇宙拳法の達人である。 パンチとパンチがぶつかり合い、エースの投げを空中回転でかわしたノースサタンが 背中の赤いマント状の皮膜をたなびかせながら、飛び上がって爪を振りかざしてくる。 「セヤァッ!」 左腕でノースサタンの爪を受け止めて、エースはカウンターで右ストレートを叩き込んだ! 自分の力も合わさった一撃を受けて、ノースサタンの体が宙を舞って大地に叩きつけられる。 それでも負けじと起き上がり、性懲りもなく含み針を吹きつけようとするが、そのときには エースは空高く飛び上がり、急降下してノースサタンにキックをお見舞いした。 「トォォッ!」 避けるまもなく後頭部を蹴られ、前のめりに倒されるノースサタン、奴は、エースのあまりの 強さに、戦いを挑んだことを後悔しはじめていたがもう遅い。いかに宇宙拳法を極めて いようとも、エースも光の国では同じく宇宙拳法の達人であるレオや、その師匠筋の セブンとも数え切れないほど組み手をしており、彼らに比べればノースサタンの攻撃など たやすく見切れる。 だが、エースもまた今は完全ではなかった。 「あっ、カラータイマーが!」 「そんな! まだ一分しか経っていないぞ」 地上で戦いを見守っていたキュルケとアニエスが、あまりに早く鳴り始めたカラータイマーの 点滅に、悲鳴のような声をあげた。しかし、それも当然である。エースは今はルイズと 才人と同化して、このハルケギニアの環境に適応している以上、才人が重体である 今は、本来のエネルギーの半分程度しか使えない。 ノースサタンは、エースのカラータイマーの点滅を見て、まだ自分にも勝機はあると 反撃に出てきた。鋭い爪を振りかざし、エースの顔面を狙ってくる。 「危ない!」 ノースサタンの爪が迫り、二人の悲鳴が耳を打つ。しかし、エースはそれより さらに早く拳を繰り出し、ノースサタンの顔面を殴り飛ばして地面に叩きつけた。 強い、本当に強い。間違いなく、エースのエネルギーは切れ掛かっているはずだが、 宇宙の殺し屋と異名をとるノースサタンがまるで手が出ない。そのはずだ、戦いは 戦う者の精神状態によって大きく左右される。才人とルイズの二人の心に応えるために 多少の疲れなど知らないエースに対して、所詮自分の欲のために殺しをする ノースサタンでは使命感が全然違う。 それに、エネルギーが切れ掛かっているのなら、切れる前に戦いを終わらせればいい。 ノースサタンが、さっさと逃げなかったことを後悔しながら立ち上がったとき、 エースの両手には、二本の巨大な剣が握られていた。 『物質巨大化能力!』 『エースブレード!』 巨大化したデルフリンガーと、ウルトラ念力で作り出された長刀を、二刀流の 形で持って、エースはひるむノースサタンへ向けて最後の攻撃を繰り出していく。 (才人くん、君の力を貸してくれ!) 二つの能力を使って、エネルギー切れ寸前に陥ったはずのエースの体に 不思議な力が満ちていく。そう、エースが武器を持つとき、同化している才人の ガンダールヴの能力も、一時的にエースに加算されるのだ。 そのあまりの加速にノースサタンは反応しきれず、すれ違いざまに二閃の 閃光が交差した。 『ウルトラ十文字切り!!』 ウルトラマンAとノースサタンが交差し、離れた瞬間に勝負は決した。 ノースサタンの首が置物のように胴体から転げ落ち、ついで胴体も引き裂かれる ように左右に向けて、真っ二つになって崩れ落ちたのだ。 それは、宇宙の殺し屋と恐れられた星人の、あまりにあっけない最後であった。 「勝った……な」 ぽつりと結果だけをつぶやき、アニエスはエースブレードを消し、デルフリンガーを 元の大きさに戻したエースに向かって、一部の隙もない敬礼を送った。 感謝の言葉は、いくら言っても足りはしない。けれど、これならば、言いたいことを 言わずとも伝えられる。もちろん、伝わる相手にだけはなのだが、彼女は エースならば理解してくれるものと、なぜか確信できていた。 そして、エースはアニエスにはなにも答えないまま、空を見上げると、また どこへともなく飛び去っていった。 とにかくも、一つの戦いは終わった。 バラバラに散っていた者たちも、ノースサタンの最後を知るや、急いで戻ってきて、 広場には全員欠けていなかったことを喜ぶ声が、少しのあいだ流れ、やがてアニエスは ロングビルの背に担がれたままのミシェルに近づいて、微笑した。 「無事でよかった」 その言葉を聞いたとき、ミシェルは本当に救われた気がした。 「はい……隊長こそ、ご無事で……」 涙ぐむ声で、やっと言葉を返すミシェルの頭を、まるで子供にするようになでて いるアニエスの顔は、隊長という枠をはずした、どこまでも優しいものであった。 「たい、ひょお……」 「もう、いい、もう、なにもはばかる必要はない。もう、誰もお前を傷つけたりは しないさ」 大粒の涙をこぼし始めるミシェルの顔を、アニエスは静かに抱きかかえると、 ミシェルもアニエスの首に腕を回して、彼女の胸に顔をうずめて、大きな声を あげて、幼児のように泣いた。 そう、アニエスも決してミシェルを嫌っていたわけでも、ましてや憎んだ ことなど一度もない、むしろ、誰よりも長く背中を預けて戦ってきた仲間として、 姉妹のような信頼を抱いていた。 だから、課せられた義務を果たさなければならなくなったときには、 自分の半身を切り離すような苦痛を感じていたのだが、才人の捨て身の 活躍のおかげで、二十年と十年、歩んできた時間は違えど、共に利己的な 人間のために人生を狂わされ、孤独と憎悪のなかで生きてきた二人の人間は、 様々な紆余曲折を経て、ようやく心から分かり合えたのだ。 「よかったわね。あ、あれ? なんでわたしまで目からこんなものが……」 かたわらで見ているルイズたちも、いつの間にかもらい泣きを始めていた。 「ようやく、悲劇も終わったのね」 「死んだら、誰も救われないか……そうよね」 キュルケとロングビルも、目じりをこすりながら、自分のことのように喜び、 今度こそ本当の幸せを掴んでほしいと願っていた。 けれど、今回の一番の功労者であるはずの才人は、まだルイズに背負われた ままで眠り続けている。もっとも、ルイズにとっては、自分の泣き顔を見られずに すんでよかったのかもしれないが。 そういえば、ルイズも小さいころ母や姉によく甘えたなと、思い出した。厳しい母は、 近寄りがたい存在だったが、乗馬や魔法の訓練などで疲れきって、屋敷に帰り 着く前に馬の上で眠ってしまったとき、部屋のベッドまで抱いて運んでくれたし、 エレオノールには叱られてばかりだったが、もう一人いる姉のほうには、思い出すと 恥ずかしいくらいベタベタさせてもらったものだ。 そうして、しばらくのあいだアニエスはミシェルがこれまで溜め込んできた 悲しみや苦しみを、涙といっしょにすべて吐き出させてやると、ゆっくりと 離れて彼女に語りかけた。 「ミシェル、お前の選んだ道は、これから数多くの苦難が待っているだろう。 それに、お前のこれまでのことも、清算しなければならん。わかるな」 ミシェルはぐっとうなずいた。許されたとはいえ、罪は罪、もう銃士隊には 戻れない。彼女は、あらためて自分の業の深さを感じ、アニエスに 「これまでお世話になりました」と、別れを告げようとしたが。 「だから、これからのお前の副長としての責務は、さらに重くなるぞ、覚悟しておけ」 「え……」 「どうした。なにを呆けたような顔をしている?」 「隊長、もしかして……私は、銃士隊に残っても、よろしいのでしょうか?」 「なんだ、やめたいのか?」 むしろ意外そうにアニエスは言う。 「そんな……私は」 「私は事務に弱いし、まだまだ隊にはひよっこが多い。銃士隊を早く一人前の 隊にするためにも、有能な補佐役が必要なのだ」 「はい……喜んで」 言葉に詰まって、たったそれだけを答えたミシェルの目には、また新たな きらめきが宿っていた。 「泣く奴があるか、お前以外に誰が私の副官がつとまるのだ? これからも、 よろしく頼むぞ」 「はい……はい……」 まさか、改心したとはいえ背信者をそのまま副長として使うとは、ルイズたちも、 アニエスの度量の深さに驚き、また、人の上に立つものとしてあるべき姿を そこに学んでいた。 ただし、アニエスはその心の奥で、燃え滾る怒りもはぐくんでいた。 そう……自分とミシェルをはじめ、数多くの悲しみを振りまきながら、いまだに 王宮の奥底で安楽に惰眠をむさぼりながら、陰謀をはりめぐらせている 諸悪の根源、リッシュモンに対する怒りである。 思えば、アニエスのこれまでの人生はすべて奴への復讐のためにあった。 人は不毛というかもしれないが、それがこれまでの彼女を支えてきた。 また、ミシェルも内心ではすでにリッシュモンへの復讐を誓っていた。 これは、なにも彼女たちの良心が歪んでいるわけではなく、人間としては むしろ当然の感情の帰結であった。ただし、それを公然と口に出せば才人を 悲しませてしまうと思うだけの理性のリミッターも働いていたので、今は 心の中に眠らせていた。 「ところで、これからどうなさるんですの?」 キュルケにそう問いかけられると、アニエスは気持ちを現実に切り替えて 考えた。少なくとも、今のところはミシェルの粛清は思いとどまったが、 トリステインで反逆者として手配されている状況には変わりない。このままでは、 二人とも国に戻ることはできないし、悪くすればティファニアのように人目を 避けて隠遁生活に入るくらいしか道はなくなる。 「方法があるとすれば、この陰謀の真の原因を明らかにし、それを阻止することに よって生まれる功績で罪を相殺することだ」 実際、それ以外にミシェルの社会的生命を確保する方法はないように思えた。 裁判にかけられるにしても、ワルドなどと違って情状酌量の余地はあるし、 うまく内乱を終結させれば、その祝いの恩赦も期待できる。 「しかし、手配犯を連れて行動することは、あなたにとっても危険ではありませんの?」 「ここまで来たら覚悟の上だ。それに、王党派とレコン・キスタの両方がすでに ヤプールの手中に落ちているとすると、私がのこのこウェールズに会いに行っても、 飛んで火にいる夏の虫だし、ヤプールが最終的になにをたくらんでいるのかまでは まだわからんから、レコン・キスタに探りを入れるなら、内情に詳しいミシェルが いてくれれば何かと助かる。もう、レコン・キスタに未練もあるまい」 「ええ、もう目が覚めました。これから私は、自分で選んだ正義に従っていきます」 依存から自立へ、それもまた地球人類がウルトラマンから得た意思であり、 才人を通じて、また一つ受け継がれていった。 しかし、意思はあっても重体であることには変わりなく、それをロングビルに 指摘されると、ミシェルはまだ到底立ち上がれる状態ではないにも関わらずに、 ひざをついて立ち上がろうともがいた。 「私なら大丈夫だ。隊長のお気持ちを、無駄にするわけには、いかん」 そう言いながらも、やはり肉体のダメージは補いがたく、腰を上げかけたところで 崩れ落ちて、危うくロングビルに抱きとめられた。 「無茶をするな、普通なら数ヶ月はベッドから動けないような傷だ。いくら銃士隊員が 鍛えているとはいえ限界がある。当分はサイトにでも背負わせるから、それで よかろう」 その瞬間、ミシェルが一瞬喜色を、ルイズが微妙に頬を引きつらせたのを キュルケは見たのだが、止めないほうが後々面白いことになりそうなので黙っていた。 ただそれでも、それが綱渡りなことには変わりなく、場合によってはアニエスまでも 反逆者の共犯として処分されてしまう可能性もある。いや、ミシェルのことを知っている リッシュモンならば、裏に手を回して必ずそうするとアニエスは確信している。 実は、アニエスは先だってのホタルンガによる貴族の大量殺人で、リッシュモンが 被害者にいなかったことに安堵していた。もちろん、自らの手で裁きを下すためである。 奴は、国家機構の深部に巣食う寄生虫のようなもので、目立たず、無害を装いながら 肉を食い荒らし、内臓の奥深くに住み着いている。奴は、その悪辣さもさることながら、 危険を回避する保身能力の高さゆえに、これまで生き残ってきた。 しかし、リッシュモンに深い憎悪を抱くアニエスは、奴を地獄に叩き込むために ずっと用意を整えてきたのだ。 「ミシェル、今のお前ならば話してもよかろう。実は、アンリエッタ王女も、リッシュモンの 背信行為には気づいている。だから、お前も……」 アニエスがなにやらミシェルの耳元で二言三言ささやくと、ミシェルも強い意志を 込めた目でうなずいた。それに、リッシュモンさえ倒せば、宮廷内の反アンリエッタ勢力は 完全に力を失う。かなり危険な賭けだが、ミシェルの協力が得られるのであれば かなり確実性は増すだろう。 「だがそれも、このアルビオンで起きている異変を解決できたらばの話だ。なにせ 相手は総勢二十万の軍隊だ。こっちは十人にも満たん」 「ウェールズは、三日後にレコン・キスタとの正面決戦に打って出ると言っていました。 今からだと二日後になりますか、何かが起こるとしたらそのときだと思います」 「だろうな。しかし、何かが起こってからでは手遅れということもある。危険だが、 王党派に探りを入れてみるしかないか」 ヤプールが何かを王党派やレコン・キスタを利用して進めようとしているならば、 その準備がおこなわれているはずだ。その証拠に、ブラック星人などを使って、 周辺住民などをなかば強制的に集めている。 ただし、下手をすれば戦争のど真ん中に巻き込まれてしまうか、ヤプールの 陰謀にまとめて捕まってしまうこともありうる。けれど、遠くから眺めている だけでは何もわからない。 「ようし、それでは時間がない、いく、ぞ……」 そう言いかけて、アニエスは全身を貫いた疲労感に襲われて、倒れ掛かる ところをかろうじてキュルケに支えられた。 「無理をなさらないほうがよいですわよ。あなただって相当に疲労してるじゃあ ありませんか」 荒い息の中で、アニエスは自分の肉体のもろさを嘆いたが、それもやむを えないところではあった。トリステインで内通者の狩り出しをおこなってから、 そのままアルビオンまで強行してきて、この村にたどり着くまでまったく 休みなしで、しかも才人との決闘やノースサタンとの激闘をしたとなっては、 いかに鍛え上げたアニエスの体もスタミナを使い果たしていた。 彼女はロングビルに何らかの反論をしようとしたが、自分の足でまともに 立つことすらできない状態では、なにを言っても説得力はないので、仕方なく まずは呼吸を整えることに専念した。 「今日のところは、この村で休んで、調査は明日からにしたほうがいいでしょう。 その体では、また敵と遭遇したらとても戦えませんわよ」 「仕方がないな……」 アニエスは、彼女にしては珍しく妥協した。いかな豪胆な彼女でも、才人、 ミシェル、それに自分と、半数以上がまともに動けない状態では、なにも できないということはわかっていた。時間はない、だが、少なくとも一晩の 休息をとれば才人と自分は動けるくらいには回復できるだろう。 無茶は禁物か……焦る気持ちはあるが、あと二日なら半日くらい休養に 使っても余裕はあるだろうと、彼女はなんとか自分に言い聞かせた。 太陽は、真昼の光芒から、わずかな紅さを持ったものに変わりつつあった。 小村の家屋は、半数は戦いの巻き添えで哀れにも倒壊したものの、 幸いにも一行が寝泊りするのに充分な家は残されていた。もちろん、 無断で借りるのであって、住民が戻ってきたときは、台風にでもあったと あきらめてもらうしかないのが心苦しいところなのだが。 「壊れた家のところには、少しお金を置いていきましょう。申し訳 ありませんが、それくらいしかできませんわ」 ロングビルの妥協案に、一行はやむを得ずうなずいた。幸い、ルイズや キュルケの財布には予備の金が残っているし、アニエスも旅立ちのときに 旅費としてそれなりの金子を持ってきている。木造の小さな小屋のような 家ばかりの小村なら、建て直すのに充分とはいえなくとも家具代くらい にはなるだろう。 その後、一行はよさそうな家に才人とミシェルを寝かせて、ロングビルが 住人が残していった食材で夕飯を作る間、それぞれ休息をとり、やがて 才人が目覚めて、アニエスがミシェルの処刑をおこなうのを中止、正確には 無期延期したのを、飛び上がるほど喜んで、全身打撲を思い出させられた あとにベッドに逆戻りさせられた。 簡素だが、ティファニアの師匠筋のロングビルの料理は、疲れきった 一同の体から疲労を追い出し、新鮮な息吹を吹き込んでくれた。 「さあて、じゃあ明日は早いから、さっさと寝ましょうか」 「はーい」 くたくたに疲れきった一同は、睡眠欲にまかせるままに、ベッドに 倒れこんでいった。もしかしたら、これが最後の眠りになるかもしれないが、 世界が滅べばどのみち死ぬのだから、彼女たちは案外な豪胆さで さっさと意識を放り出していった。 ルイズ、キュルケ、ロングビルが、ベッドの上で健やかな寝息を立てている。 ミシェルは、これまで眠っているときにさえさいなまされてきた重りから 開放されて、何年かぶりかの熟睡を味わっていた。 そうして、数時間ほどが流れて、ふと目を覚ました才人は、外の空気を 吸ってこようかと家の外に出て、壁にもたれかかるようにしながら 立っているアニエスを見つけた。 「眠らないんですか?」 「全員で寝て、万一奇襲を受けたら目を当てられないだろう。私はここで 見張りをしていよう。心配しなくても、立ったまま眠る訓練はしてあるから、 朝までには疲れをとっているさ」 才人は、はぁと答えながら、やっぱりこの人は並じゃないな。我ながら、 よくもまあこんな人に決闘を挑んだものだと、自分自身にあきれていた。 「アニエスさんに追いつくには、あと十年はいるかなあ」 そこでアニエスは、百年早いと言ってやろうかと思ったが、さすがに 意地悪もほどほどにと考え直して、話題を転じた。 「お前こそ、もう立って歩けるのか?」 「傷の治りは早いほうなんですよ、伊達にこれまでルイズの折檻に耐えてきた わけじゃありませんって」 笑って答える才人に、今度はアニエスのほうが呆れる番だった。もちろん、 才人が成長期で、傷の治りが早いというのもあるが、同化したウルトラマンAに 治してもらっているのだとまでは、さすがに言わない。 やがて二人は、二言三言、他愛もないことを話したあとで、決闘のこと、 ウルトラマンのこと、そしてミシェルのことを話した。 「本当に、いろんなことがありましたね」 「まったくな」 そのいろんなことを起こした原因はお前だがなと、アニエスは内心で思った。 初めて会ったときは、確かトリステイン王宮の廊下だったか、あの時は、 貴族の坊ちゃん嬢ちゃんたちの付属品くらいにしか思っていなかった やつに、まさか自分が戦って勝てないことがあるなどと、本当に想像もしなかった。 「お前には、私たちにはない強さがあるのかもしれないな」 「え? なんですって?」 「なんでもない。さあ、それよりもそろそろ眠らないと、回復するものも 回復しないぞ、子供は今のうちにいい夢を見ておけ」 「はーいっと」 才人は、返事と同時に大きなあくびをしてアニエスに手を振って見せた。 子ども扱いされたのは心外だが、実際彼女から見れば子供なのだから 仕方がない。 けれど、家のドアを開ける前に、才人は思い出したようにアニエスに 頭を下げた。 「なんの真似だ?」 「まだ、お礼を言っていなかったから……ミシェルさんを、許してくれて ありがとうございました」 「別に許してなどいない。いずれ、お前との決着は必ずつけるからな」 「そのときは、今度はおれが勝ちますよ」 「で、ミシェルの身柄をもらって、嫁にでもするつもりか?」 才人の顔が、動揺のために一気に赤くなったのが、月明かりの中でも アニエスにはわかりすぎるくらいわかった。 「い、いえ! ミシェルさんは……おれにとって、その、姉さんみたいな ものだから」 「ほう、姉か」 「ええ、おれには、姉妹がいないから……だから、お姉さんってのが いたら、あんなふうなのかと思って」 その、どことなく寂しそうな才人の声を聞いて、アニエスは、わずかに 目を細めた。才人が、ルイズに召喚された使い魔であることは彼女も ずっと前から知っている。それはすなわち、彼にとって家族や友人と、 強制的に離別させられたことを意味する。表面上は明るく振舞っているが、 人間はそんなに長く孤独に耐えられるほどに強くはない。才人は、 才人なりに孤独と戦ってきたのだと、アニエスは彼が誰よりも絆を大切に する理由の一つを、知ったような気がした。 「ふっ、そうだな、お前には、ミス・ヴァリエールがいたんだったな…… ふふ、もういい、寝ろ」 「あっ、はいっ!」 「おっと、ちょっと待て」 踵をかえそうとする才人を、アニエスは呼び止めると、壁に背中を 当てて目を閉じた。 「私もそろそろ眠くなってきた。朝まで一眠りさせてもらおう。だから、 これから言うことは、すべてただの寝言だ。朝になっても、何も覚えて いなかった、いいな」 「あっ、はい」 才人がうなずくと、やがてアニエスは呼吸を整えて、独り言のように つぶやき始めた。 「……お前はいいやつだな……」 「えっ?」 「今回のこと、頭を下げて礼を言わなければならんのは私のほうだ。 お前のおかげで、私も部下殺しという業を背負わずにすんだ。 あいつを、殺さなくてすんだ……本当に、感謝する」 アニエスは、のどに突っかかるように、とつとつとつぶやき続け、 それが涙をこらえているということは、才人にもわかった。 「だが、今度の戦いは、ヤプールも国そのものを利用しようとしている 以上、私もお前たちを守りきる自信はない。だから、私に万一の ことがあったときには、お前が皆を連れて逃げろ」 「そんな、アニエスさんを見捨てるなんてできませんよ」 「むろん、あくまで万が一さ、私も、なすべきことが残っている以上、 むざむざ死ぬ気はない。しかし、私一人の力でできることは限られている。 だから、そのときは、ミシェルを、私の大切な部下……いいや…… 私の、大切な妹を、守ってやってくれ」 「……はい!」 一切の迷い無く、才人は約束した。 夜は深まり、月は沈んで、また朝が来る。けれど、その夜のことは、 誰にも知られず、二人も朝になったら一言も口にすることはなかった。 だがそのころ、ノースサタンがウルトラマンAに敗れ去ったことを知った ヤプールは、次元の裂け目から下僕たちに新たな指令を与えていた。 「うぬぬ……まさか、エースに我々の作戦を気づかれてしまったのでは あるまいな。こうなればやむをえん、作戦の発動を一日早めるのだ! 明日を持って、この茶番劇を終わらせてやれぇーっ!」 禍々しい叫び声が、王党派とレコン・キスタの最高司令官の部屋に 木霊する。果たして、ヤプールがたくらんでいることはなんなのか、 才人も、ウルトラマンAも、まだそれを知らない。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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行きは2人だが帰りは4人となり、そのうち2人は喧嘩をしていた。ルイズとキュルケだ。 賑やかなのを通り越して煩くなったが、移動による疲れもあってじきに静かになった。 「やっと黙ったか?うるせー娘っ子達だ。ちったー慎みってのを覚えたほうがいいな」 「何ですって!? …って、あらダーリン。インテリジェンスソードなの?それ」 「……そうらしい」 「あえてそんな口の悪い錆びてる剣を選ぶなんて、やっぱり面白くて素敵だわダーリン♪」 「いつアンタのダーリンになったのよツェルプストー!」 「あら私の前じゃ…」 「「……」」 タバサが少しだけ眉をひそめていた。本が読みたいのだが捗らないらしく、黙って竜を操っている。 しかしそのまま喧嘩が再燃しそうなのをとうとう腹に据えかねたのか、おもむろに杖を振るった。 「うるさい」 「う、わ、悪かったわよ……ところで誰よアンタ。何でツェルプストーと一緒にいるの?」 「あたしの友達だからよ。この風竜は彼女の使い魔なの」 「タバサ」 「え、霧亥も知ってるの?」 「図書館で助けてもらった」 タバサが頷く。様々な視線が4人(主に霧亥を除いた3人)の間で交差する。 その後は誰も喋ることなく、夕食の時間になるころには学院に戻ることができた。 空に月がぼんやりと浮かびあがり大地を照らすころ、4人は外にいた。 結局タバサと霧亥は2人の喧嘩を止めることができなかった。 そして壁にヒビが入る。 「あたしの勝ちね、ヴァリエール」 「うう、屈辱…」 「帰るぞ」 霧亥が戻ろうとしたその時、地鳴りとともに地面が隆起して巨大な人の姿を形成していく。 「……素材が地面と同じもので構築されている。何だあれは」 「きゃあああああああああ!ゴーレム!?」 「盗賊!?ちょっと霧亥!なにボサっとしてるのよ!」 「行け」 「いいからこっちに「逃げるわよヴァリエール!」ちょっとツェルプストー!離してよ!」 「乗って」 霧亥はデルフリンガーに手をかけながら様子を伺うと、いつでも回避できるように構える。 一方で2人をレビテーションで浮かばせたタバサがそのまま風竜で2人を掴むと距離をとる。 ゴーレムは、ルイズとキュルゲがタバサの風竜で逃げ、霧亥がじっと眺めているのも意に介さない。 そのまま壁を破壊して中が見えると、黒いローブを身に纏った盗賊が宝物庫に侵入した。 しばらくして何かを持ち出してくる。それは長方形のプレートのようなものだった。 壁に何か文字を刻んで、悠々と立ち去っていく。誰も止めるものはいない。 「これが『異界の板』ね…いったい何なのか知らないけど、確かに2つとない宝だわ」 黒いローブの正体は『土くれ』のフーケという。 フーケはルイズ達の存在に気づいているが、この距離なら顔は見られないだろうと思っている。 顔さえ見られなければ、後はどうとでも誤魔化すことができる。それは事実だった。 霧亥はフーケの顔より手に持った道具に目を奪われた。 素材までは判別できなかった。だが見逃せない刻印があったのだ。 縦線と十字架を左右対称に刻んだ、その文様。 「セーフガード」 網膜の表示を確認した霧亥は、フーケの追跡を開始した。 2人が野を駆けている。一人は逃げて、一人はそれを追いかけている。 フーケが背後を振り返れば、夜の闇に紛れて竜が追いかけてくるのも見ることができた。 だが追跡してくる霧亥を確認して以来、フーケに振り返る余裕はない。 「(大剣を持ったままでなんてスピードだい?さっきから随分走ってるのにと、ちっとも疲れが感じられない…)」 このままでは霧亥に追いつかれるのは明らかであるのをフーケは認識する。 その追跡者を振り切るべく、3回同じ呪文を唱え、続いて別の呪文を1度唱えた。 「おでれーた!この速度なら追いつけるぜ相棒!」 「様子が変だ」 異変を察知した霧亥は、走りながらデルフリンガーに手をかける。 「エネルギーを計測…周囲の素材でまた何か生成している」 「ありゃゴーレムだ。魔力が小さい?ゴーレムにはもっと…けど数が11、12…まずい、まずい!」 「黙っていろ」 ルーンが起動し、霧亥が戦闘行動を開始する。 胴体を両断。縦に両断。胸に突き立てたデルフリンガーを抜く間に襲い掛かるゴーレムを殴って動きを止める。 だがその間に別のゴーレムが霧亥を思い切り殴りつけ、デルフリンガーごと霧亥の体が宙を舞う。 3メイルほど飛んだかと思うと、霧亥は口から血を流しながらデルフリンガーを支えに立ち上がった。 「やられたぜ相棒。他のゴーレムは単なる土人形か単なる土の造形で、本命はあいつだ」 「……」 鈍い音を立てて近寄ってくるそのゴーレムをデルフリンガーを振りぬいて破壊する。 ズン、と鈍い音を立てて全てのゴーレムは元の素材に戻った。 後には土くれの山が出来上がっただけである。 「なあ、ちょっといいかい」 「……」 学院に向かって歩いてかえる霧亥に、デルフリンガーが話しかけた。 「今ので思い出したことがあるんだ。俺の刀身で触れた攻撃魔法を吸収して動力に変換できる。 今のゴーレムは厳密には攻撃魔法じゃないから無理だが、役に立てそうかい」 「ああ」 「良かった。あともし何かあったとしても、一時的ならこっちで所有者の体を操作できる。ある程度の魔法を吸収してないとダメだけどな。 それに手に持ってくれないと無理だ」 「……」 霧亥は立ち止まってデルフリンガーをじっと眺めた。しばらくしてデルフリンガーが弁解する。 「待ってくれ!あくまでも緊急避難用だし動作優先権はそっちの方が上位だ!勝手に操ったりしねーって! まさかここに置いていこうなんて考えてないよな?」 霧亥は答えず、黙って歩く。風竜がこちらに接近してくる。 「なっ?せっかくいいコンビになれそうなんだ。俺ッちが機能を回復させれば探索も楽になるぜ。だから捨てないでくれよ相棒」 「……帰るぞ」 その後で心配する3人をよそに、霧亥は歩いて学院まで戻った。 翌朝になってもまだ、学院は『土くれ』のフーケについてで大騒ぎになっていた。 教員一同は詳しく現場を調べたり、生徒たちに事情を説明したりしていた。 昼前になるころには目撃者に対する聴取が行われていた。 この時に教員一同を集めてルイズ、キュルケ、タバサを召喚するべきだと提案した教員はコルベールという。 コルベールはかつて従軍していた経験もあって、こういう異常事態にも適応力を持つ人だ。 今回も慌てる教員や生徒たちに対して、冷静に沈静化を図るべく行動をしていた。 「申し訳ないが、君たちには事件について話してもらわなくてはならない」 こうして3人と使い魔である霧亥(トカゲ2匹は大きさと有効性が無いと判断されて放置された)は 教員一同と学院のトップに囲まれることになった。 「さあ、見たことを詳しく説明してくれたまえ」 進み出て語りだしたのはルイズだった。 「大きなゴーレムが壁を壊して、その肩に乗っていた黒いローブのメイジが何かを持ち出したんです」 「つまり、君たちが魔法の練習をしていたところに『土くれ』のフーケがゴーレムで現れたと」 そう尋ねるのはオスマン学院長。動揺よりも疲労感のほうが色濃い。 「それで?」 「城壁を越えてゴーレムは歩いてきました。そしたら私の使い魔がフーケを追いかけていって…」 「なんと!君の使い魔が『土くれ』のフーケを?」 これには多くの教員たちが驚いた。だがルイズの次の発言に、更に教師たちは驚かされる。 「それで、私たちは使い魔を追いかけたんです。とても危険なことだと思いました。 そうしたら霧亥…使い魔は、少し進んだ先で無数のゴーレムと戦って足止めされていました。 結局は逃げられてしまったようなのですが……」 「戦った?一生徒の使い魔が、あのフーケのゴーレムと?ならば無事なわけが」 「いやいやギトー先生、彼は以前、グラモン家の子息との血統で…」 「だけどあの黒い服は確かに怪しい……」 静粛に、というオスマンとコルベールの声により沈黙が取り戻される。 「君は…確かキリイという名前だったね。キリイくん。君はフーケについて何か知らないかね。どんな些細な事でもいい」 「俺が見た限りでは――」 霧亥が答えようとしたとき、遅れてミス・ロングビルが現れた。彼女はオスマンの秘書だ。 「……と、いうことで私が調べたフーケの報告は以上です」 「ふむ、この生徒たちの証言とも辻褄が合うな」 彼女は遅刻に対する非難の目を意に介さず、調べ上げたデータを報告した。 「ではフーケに対する捜索隊を編成する。我こそは、と思うものは杖を掲げよ」 コルベールの最初の提案は政治的な都合により却下され、捜索隊が編成されることになった。 だが志願する教員はいない。フーケの実力からして、下手をすれば戦闘になるからである。 そのまま無言で部屋を出て行こうとする霧亥と、それに気づいて杖を掲げるルイズ。 「行きます」 それに合わせてキュルケとタバサも杖を掲げた。 「しかしタバサが『シュヴァリエ』の称号を持ってるとはね」 彼女たちは馬車に揺られている。移動に疲労せず魔力を使わずに済むように、という配慮である。 御者を務めるのはロングビルである。戦力になり、道を知っている、というのが選出の理由だった。 「ところでミス・ロングビルは…」 「よしなさいよ」 「あら、いいじゃない」 霧亥はロングビルを何度か眺めるとじっとしている。 タバサは本と霧亥を交互に眺めてから、本を読むことに専念した。 そして一向は馬車を降りて森へと向かっていく―――… 一向は開けた場所に出た。森の中の空き地。広さはそこそこ。 真ん中に廃屋が1軒だけ存在している。 「わたくしの聞いた情報では、あの中にいるという話でした」 ミス・ロングビルは廃屋を指差してそういった。人が住んでいる気配は無い。 そんな気配よりも雄弁に語る情報を霧亥は見ていた。4人が相談をすべく集まるが、霧亥は歩いて小屋へ近づく。 「ちょっと霧亥!」 「あの中に有機…生き物は存在しない」 戸惑う4人を意に介さず、そのまま近づいてドアノブに手をかける。 鍵すらかかっていないドアは乾いた音を立てて開け放たれた。 「近くにフーケがいないかどうか、偵察に行ってきます」 そう言い残してミス・ロングビルは森の中に消える。 他の3人は、罠が無い事を確認すると小屋の中に入ってきた。 持ち去られた品物の奪還が、この捜索隊のひとつの目的だからである。 「異界の板」 発見したのはタバサだった。それはチェストの中に無造作に放り込まれていた。 「あっけないわね!」 キュルケがそう叫んだ。ルイズもそれに同意したようだ。 「携行型マルチデバイス。上位セーフガードの標準装備」 霧亥がそう口にする。 「え、どういうこと?」 3人の視線が霧亥に集中した。全員が興味津々といった様子だ。 「この世界の道具じゃない」 「あら、使い魔さんはこの道具の使い方をご存知なのですか?」 偵察を終えたミス・ロングビルが戻ってくる。霧亥はそれを手にとって操作してみた。 電源が生きている。そのまま幾つか操作してログを調べてみた。 「これに触れたことはあるか?」 ミス・ロングビルに尋ねる霧亥。彼女は首を横に振った。 「見たことはありますが、触るなんてとても」 「……持っててくれ」 ポケットを探りながらデバイスをミス・ロングビルに手渡す。 ミス・ロングビルは霧亥の手元が気になるのか、何の気なしにそれを受け取った。 「おい、相棒。俺を置いてどうしたんだい」 「待て」 地面に突き立てたデルフリンガーも理解できない、といった具合に尋ねている。 そのまま霧亥はミス・ロングビルからデバイスを返してもらうと、再び操作を開始した。 「……お前がフーケだ」 「何の冗談ですか?」 片手で構えたデルフリンガーをミス・ロングビルに突き付ける霧亥。 操作して生体反応のログを確認していたのである。 「これには触れた人間の記録が残る。フーケが持っていったときの記録とお前が一致した」 「……ちょっと油断しすぎたね。そんな面倒なマジックアイテムだと知ってたら触らなかったのに」 「ミス・ロングビル!?」 3人は目の前で起こった出来事が理解できないようだったが、じきにタバサは杖を構えていた。 「なぜこれを狙う」 「魔法学院の宝だからさ。だけどアタシにもそれが何なのか判らなかった。アンタ、知ってるみたいだね? 逃げも隠れもしないから教えてくれないかい?そりゃ、いったい何なんだい?」 「俺の世界の手帳のようなものだ。だがこれを持つ存在はかなり限られる」 フーケが笑ったような気がした。事実笑っていたのだが、それを認識する瞬間に部屋が煙に包まれた。 「煙――キャッ!?」 タバサがとっさに杖を振るい部屋の窓ごと煙を吹き飛ばしたが、そこで状況が変化していた。 ルイズが人質にとられてしまったのである。 「ミス・ロングビル!どうしてこんなことを!」 「簡単よ。1つはお金、もう1つは、私が貴族を嫌いだって事。さあ、その『異界の板』の使い方と中身を説明して渡しなさい。 下手に動けばこの娘の首を切り裂くわ」 「わかった」 「おい、相棒」 「別にいい」 そのまま操作して情報を調べ上げる。所有者は上位セーフガードの一人で、最後にアクセスしてから随分と長い時間が経過していた。 とある大規模な珪素生物との交戦の際に、時空隙に巻き込まれてしまったようだった。 「この『異界の板』にある機能を全て開放させるには、この板に持ち主を認識させる必要がある」 「続けな」 「お前がこの板の、この赤い四角の中に触れた後に特定の操作を行えば、その認識が可能だ」 「中身はどうだったんだい?」 「周囲の地形の情報を見ることができる。どんな形で、目立つような生き物がいるかどうか」 「そいつはいいねえ……さあ渡すんだ」 「ルイズを開放するのが先だ」 「立場ってもんが判ってないようだね?」 ミス・ロングビル……フーケは、そのまま長い呪文を詠唱すると、巨大なゴーレムを作り出す。 そこに乗っかると、ルイズとの交換だと言った。 「持って行け」 「霧亥!それを持って帰ってフーケを手配してもらって!私は死んでもいいから!」 「……」 放り投げられるデバイス。 フーケはそれを受け取るとルイズを突き飛ばし、手帳の赤い部分に指を押し付けた。 「へえ、綺麗な画面だね……ん?何か点滅して……キャアッ!?」 突然デバイスは稲妻のようなものを放つと、ボン、と音を立てて爆発した。 「お前、騙したね!」 激昂したフーケのゴーレムが、霧亥を軽々と殴り飛ばして樹木に叩きつける。 木の幹はそのまま真っ二つに折れた。フーケは次にキュルケとタバサに攻撃を加えようとした。 「無理よこんなの!」 すかさず杖を拾ったタバサとキュルケは魔法を打ち込むが有効打には成りえない。 ルイズも杖を拾ったとき、風竜が飛んできた。 「ヴァリエール!逃げるわよ!」 「退却」 だがルイズは動かない。彼女は怒りと恐怖で震えていた。 目の前で人が殴り飛ばされるのも、ナイフを突き付けられるのも初めてだ。 「このーっ!この!この!」 ルイズはファイアーボールを打ち込む。当然失敗して、そのままゴーレムの一部が抉れただけだった。 「ヴァリエール!ちょっと、ヴァリエール! ああもう、馬鹿ルイズ!」 「レビテーション」 「待って!霧亥が!」 「もう駄目よ!」 ルイズの体が浮遊したのをすかさず風竜が口に咥え、急いで飛び去る。 膨大な質量を持つ拳が彼女たちの存在する空間座標に攻撃を加えるが、ギリギリでの回避運動に成功していた。 「チッ、逃げたか!とんだ失態だよ…!」 飛び去る風竜を見送りながら、フーケはゴーレムを解除して逃げる算段に入る。 「(このまま森を抜けてゲルマニアの方面に逃げるか、あるいはアルビオン方…)」 そんな思考は、倒したはずだと思った使い魔の攻撃で中断された。 腹から飛び出している錆びた刃は血で濡れている。 「あ……」 理解する間もなく自分の腕が折られ、足が折られた時点で彼女は気を失った。 「相棒、容赦ねーな…って、相棒…おめーも腕が…」 「これは敵だ」 「まだ生きてるぜ」 「どちらも回収して帰る」 フーケの杖をへし折り、デルフリンガーを握りなおす霧亥。 「待った、殺すな相棒。上手くいけば賞金が手に入るぜ。確かこういうのは生きてた方が増えることが多いんだ」 「……」 無言でデルフリンガーを腰に固定し、爆発したデバイスの外側の残骸を回収する。 そのままフーケを抱えあげると、霧亥は再び歩き出した。 そして止めていた馬車を使って学院に戻る。 「フーケを捕らえ、不完全だがデバイスも回収した」 「霧亥?」 「ダーリン?」 「……生きてる?」 学院に戻ると、3人がそれぞれ驚きの余りに立ち尽くしていた。 しかしその後ですぐに駆け寄ってきて、抱擁を受ける。 その際に腕が折れているのに気がついた一同により、霧亥も治療を受けることができた。 ルイズは何を思ったのか、少し泣いていた。
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 15話 剣の誇り (後編) 奇怪宇宙人ツルク星人 登場! 軍民合わせて100人近い犠牲者を出した恐怖の夜が明けた。 市街地は警戒する兵士達が行きかい、戒厳令が解除された後は、それらのほかに、いくつも運ばれていく 棺や涙に咽ぶ遺族達の姿が人々の不安をあおり、平日だというのに出歩く人は少なく、用が済めば家に 立てこもって固く鍵をかけて閉じこもり、噂は噂を呼び、不安は幻影の殺人鬼像を作り出し、トリスタニア全域が 見えない恐怖に包み込まれていた。 そんななか、王宮内での兵士達の鍛錬場では、銃士隊隊長アニエス、副長ミシェル、そして才人が 抜き身の剣を構え、対ツルク星人のための作戦を練っていた。 才人からの情報により敵の正体は知れたものの、たった一体でトリステイン軍すべてを翻弄するような 相手には正攻法では勝ち目がない。そして、人間大で暴れまわる相手にはウルトラマンの援護も期待できない。 トリステインの人々は、今初めて自分自身の力のみで侵略者を打ち倒さなければならない事態に向き合おうとしていた。 「ひとつの技にはひとつの技で勝てる。しかし二段攻撃には三段攻撃しかない」 俊敏な動きと、両手の刀を使った二段攻撃を操るツルク星人を倒すには、かつてウルトラマンレオが用いた 三段攻撃の戦法を使うしかない。だが、ウルトラマンレオほどの身体能力の無い人間の身で三段攻撃を 習得するのは一朝一夕のことではない。 そこでアニエスが考案したのが、三段攻撃を変形させて一段を一人が受け持つ、三身一体の戦法であった。 これは、星人の第一刀を最初の一人が受け止めた後、二人目が星人の二段攻撃を防ぎ、間髪いれずに 三人目が星人にとどめを刺すといったものであった。 だが、現状唯一星人に対抗できそうなこの作戦が決定したとき、銃士隊の隊員達に別の意味での緊張が 走った。それは、この戦法が三人で行う以上、誰がやるのかということだった。剣技の順から考えて、隊長、 そして副長は間違いない、問題は三人目である。皆が息を呑んでアニエスの発表を待った、しかしその口 から出たのは信じられないような言葉だった。 「この作戦はまず、変幻自在に繰り出される奴の第一撃を受けられるかどうかにかかっている。その役目を 少年、お前がやれ」 「えっ、俺が!?」 いきなりアニエスに指名されて才人はとまどった。ツルク星人の討伐には参加するつもりではあったが、 手だれぞろいの銃士隊の隊員達を差し置いて自分が選ばれるとは思ってもみなかった。 当然、他の隊員達からもどよめきが起こる。大事な先鋒をいきなり現れたよそ者に任せるとは、隊長は何を 考えているのだ。 「奴の攻撃は並みの人間では見切りきれん。腹立たしいが、私の見た限り奴の太刀筋を見切れる動体視力を 持つのはお前だけだ」 「は……いえ、了解です!」 そうまで言われては才人にも断る理由は無かった。形ばかりの敬礼ではあるが、精一杯のやる気を示す。 隊員達も、昨晩のことを思い出して口をつぐんだ。押されていたとはいえ、まがりなりにも星人と打ち合いが できたのはこの少年だけ、隊長は現実的な判断をしたのだと。 「よし、二撃目はミシェル、お前だ」 これは妥当な人選であったので文句は出なかった。副長という肩書きが示すとおり、彼女の剣技はアニエスに 次ぐものであることは誰もが知っている。 「はっ! ですが、彼のインテリジェンス・ソードはともかく、我々の剣は奴の剣との打ち合いに耐えられませんが」 「王宮の魔法使いに依頼して『固定化』の魔法を限界までかけてもらう。一撃くらいは耐えられるはずだ。そして、 とどめの三撃目は私がやる。いいか、奴は今晩も必ず現れるだろう。それまでになんとしても三段攻撃を会得 しなければならん。覚悟しろ!!」 三段攻撃を会得できるまで地獄を見せるというアニエスの叱咤に、才人とミシェルは身を引き締めた。 そして地獄の特訓はスタートされた。 方法は、手だれの銃士隊員二人の連続攻撃を才人とミシェルが受け止め、アニエスの攻撃につなげると いうものだったが、当然真剣を使った実戦さながらのものであり、しかも三人の間に一糸乱れぬ完全な 連携が要求されたために、訓練は難航した。 「馬鹿者!! 反応が遅い、それでは二撃目に間に合わんぞ」 「小僧!! それでは二撃目をミシェルが受けるスペースが無いぞ!!」 「もっと剣の根元で受けろ、深く受け止めなくてはすぐに逃げられるぞ!!」 「本物の星人はもっと速いんだ、目を見開け!! 瞬きをするな」 アニエスの怒鳴り声がする度に最初からやり直され、日が高く昇るころには相手役の隊員達も10回近く交代し、 二人とも肩で息をしているような状態になっていた。 もちろん、アニエス自身も二人に合わせて攻撃できるように突進を繰り返し、全身汗まみれになっているのには 変わりない。相手役の隊員には代わりがいるが、この三人に代役はいないのだ。 だがやがて、あまりに過酷な訓練に隊員のひとりが根を上げて叫んだ。 「隊長、こんなことやっても無駄です。こんなことであの悪魔に勝てるわけがありません!」 隊員達の間には、昨夜の戦いの絶望的な様子が焼きついていた。人間をはるかに超えた星人に対する恐怖感は 地球人もハルケギニア人も変わりない。 すると、ほかの隊員達もそうだと言わんばかりにアニエスに詰め寄ってきた。 「魔法を軽く避けて、20メイルはジャンプするんですよ。人間に捉えられるわけがありません」 「そうです。それに、無理に相手しなくても、そのうち巨大化したところをウルトラマンAに倒してもらえばいいじゃ ありませんか、第一、元はといえばウルトラマンAがあいつを取り逃したのが原因なんですし!」 口々に特訓の中止を訴える隊員達を、アニエスは黙って聞いていたが、やがて大きく息を吸うと、剣を振り上げ これまでにない声で一喝した。 「黙れ!! 今弱音を吐いた奴、全員首を出せ。いつから銃士隊はそんな意気地なしばかりになった!! ウルトラマンに 任せればいい? 今荒らされているのは誰の国だ!! 我々は何のために陛下から剣を預かっているのか忘れたか」 阿修羅のようなアニエスの怒り様に、隊員達は完全に気圧されて言葉を失った。 「し、しかし……」 それでも、何人かの隊員はまだ食い下がろうとしたが、そこでデルフリンガーを杖にして休みながら見守っていた 才人が割り込んだ。 「恐らく星人はもう2度と巨大化しないよ」 「な、なに、なんでそんなことがわかる!?」 「巨大化したところでウルトラマンAには敵わないのがわかっているからさ。だから小さくなって直接人間を襲い にかかってきたんだろう。ずる賢い奴さ」 隊員達は絶句した。 確かに、ツルク星人はウルトラマンAの敵ではない。だがそれはエースと比較すればの話で、星人の身体能力と 武器は人間のそれをはるかに上回る。現に、たった一晩暴れただけでトリスタニア中が恐怖に包まれ、都市機能にも 影響が出始めている。 アニエスは全員を見渡して言った。 「このまま奴の好きにさせたら、1月と経たずにトリスタニアは人の住めない死の街になる。そうなれば、もう後は ヤプールの思うがままだ。魔法では奴を捉えられん以上、剣には剣を持ってあたるしかない。そして、それしか ないなら、我々がやらずに誰がやる!? 誰がやるんだ!!」 もう、反論できる者などいなかった。 「だがチャンスは、奴がウルトラマンから受けた傷が癒えていない今、おそらく今晩が限界だろう。それを逃したら、 もう奴を倒す機会は永遠にやってこない、不満を垂れる前に、自分達の剣にかかった重みを考えてみろ!」 「…………」 無言で、特訓は再開された。 誰も一言も発せず、ただアニエスのやり直しを命じる声だけが何度も響いていた。 そして、太陽が天頂に達したとき。ようやく休憩の許可が下りた。 「よし、午前の訓練はここまでだ。全員、食事と休息を充分にとっておけ」 アニエスはそれだけ言うと、訓練場を立ち去っていった。 銃士隊は、食堂を使うこともあるが、野戦の訓練もかねて訓練場で空を見ながら食事をとることも多い。 メニューは、黒パンに牛乳、あとは野菜スープと干し肉にチーズと、栄養価は考えられているが味気ない ものばかりだったが、学院でルイズに"犬のエサ"を食わされ慣れている才人には全然問題なかった。 それに、特訓のせいで疲れているからまずいなどという味覚はどこかに飛んでいた。空腹は最高の 調味料とはよく言ったものである。 いや、というよりも才人にとって味覚より視覚のほうが腹を満たしていたかもしれない。なぜなら、 いっしょに食事をとっている銃士隊の隊員達は全員若い女性の上に、一人の例外もなく美人揃いである。 そんななかに一人だけ男が混ざっていたら、どちらを向いても花畑でちょっとしたハーレムのようなものであった。 これを学院に残っているWEKCの少年達が見たら、死ぬほどうらやましがるだろうし、ルイズが見たら 灼熱怪獣ザンボラーのごとく怒り狂うだろうが、幸せいっぱいの才人の脳髄はそんなことに気を使うキャパシティはない。 やがて、食物を全部胃袋に放り込んで満腹になった才人は、次の訓練開始までできるだけ休んで おこうと芝生に腰を下ろしたが、そのとき突然後ろから声をかけられた。 「おい貴様」 振り返ると、そこには銃士隊副長のミシェルがいた。 「あ、なんですか?」 「立て……ふん、貧相な体つきだな。始めに言っておく、私は貴様のことが気に食わん、確かに貴様の 能力はこの目で見た。昨日結果的に助けられたのも認める。しかし私はどこの馬の骨とも知れん奴に 背中を預けて戦うつもりにはなれん」 「まあ、そりゃそうでしょうね」 頭をかいて苦笑しながら才人は答えた。 傷つく言葉だが、才人はミシェルの言葉を否定する気にはまったくなれなかった。自分の人並みはずれた 剣技はガンダールヴとかいう訳の分からない使い魔のルーンのおかげだし、昨日今日会ったばかりの奴を 信用して命を預けろというのがそもそも無茶なのだ。 「だが、隊長の命令である以上、私はそれに従って戦わねばならん、それが銃士隊副長である私の 義務だからな。しかし、お前は銃士隊ではなく、ラ・ヴァリエール嬢の使い魔だ。本来はこの戦いに なんの義務も責任もない。ならば貴様はなぜ主人を置いてまでここに来た? なぜ何の関係もないはずの 戦いに自ら命を張ろうとする。それだけは答えてもらおう」 才人は、ミシェルの問いに苦笑いすると、きまずそうに、だが真っ直ぐに目を見据えて答えた。 「別に、そんなたいした理由はないです。ただ、俺は知識から星人が等身大で人間を襲うことを知っていて、 トリスタニアの人々が狙われるかもしれないことがわかっていた。だから、どうしても不安でほっておくことが できなかった。それに、望んだわけじゃないけど、俺には人よりうまく武器を扱える魔法をかけられちまったから、 力が無かったから何も出来なかったなんて言い訳はもうできないんです」 「はっ、呆れたな、そんなことのために貴様は死ぬかもしれない戦いに駆け込んできたわけか」 ミシェルの見下す目がさらにきつくなった。 「だから、たいした理由は無いって言ったでしょ。まあ、強いて言うなら……命がけで俺達を守ってきてくれた ウルトラマンに、少しでも答えられるようになりたい、あんなふうに強くなりたいと思ったからです」 才人は心の奥にあるあこがれをそのまま口に出した。 「そうか、だがそのために死ぬことを怖いとは思わんのか」 「そりゃ怖いです。本当はみんなまかせて知らんふりをしていたい。けれど、ここで逃げ出したら、 俺は自分だけじゃなくて、ずっとあこがれてきた自分のなかのウルトラマンまで裏切っちまうことになる。 そうしたら、俺はもう俺じゃいられなくなる……ウルトラマンを真っ直ぐに見ることができなくなる」 ミシェルは、その答えをじっと聞いていたが、やがて呆れが呆れを通り越して感心にいたったように 苦笑いすると、やや声のトーンを落として言った。 「ふん、臆面も無くそんなことを言えるとはたいしたものだ。貴様はよほどの馬鹿か、それともよほどの ガキか……だがまあ想像していた以上の答えはいただけた。今回限りだが、貴様に私の背中を 預けてやろう」 「あ、期待にそえるように頑張ります!」 「だが勘違いするなよ。私はまだ貴様を信用したわけじゃない。この作戦の要は貴様が奴の第一撃を 抑えられるかどうかにかかっている。次の訓練で完璧にそれを身につけてみろ、いいな」 「はいっ!!」 元気良く答えた才人に、ミシェルもようやく相貌を崩してくれた。 「ふ、元気だけはいいな。そうだ、ついでにもうひとつ答えろ、ウルトラマンはお前のいた国とやらでも 人間を守って戦っていたそうだが、なぜ彼らは命を賭してまで人間のために戦うのだ?」 「それは、俺にも詳しくはわかりません。ウルトラマンが人間に語りかけることはほとんどないんです、 ただ……」 「ただ……?」 「ウルトラマンは……みんなすごく優しいから」 才人は目を輝かせてそう答えた。ウルトラマンは、ただ戦うだけの戦士ではない。悪意のない怪獣の 命は奪わずに、時には人々の命を守るために盾となって敗北をきしたり、卑劣な罠に落ちたりもする。 けれども、そうした無言の優しさがあるからこそ、人間もウルトラマンを信じて、共に力を合わせて 戦えるし、無条件のあこがれを向けることができる。 ウルトラマンは決して全知全能の神ではない。いや、むしろ人間にとても近い存在なのだ。だから、 言葉はなくとも、人々はウルトラマンと心をかよわすことができる。 「優しいから……か」 ミシェルは、少なからず自分の中の価値観が崩されていくのを感じていた。優しさ、ずいぶん長い間 忘れていた気がする言葉だった。 「じゃあ、俺からもひとつ聞かせてください。ミシェルさん、貴女はなんのために剣を握ったのですか?」 すると彼女は一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべると言った。 「私は、恩人のためだ。私がすべて失い、存在すら無くなりかけた時、その人が私をすくいあげてくれたから こそ、今私はここにいられる」 それから数十分後、改めて特訓は再開された。 相変わらず、アニエスの怒声が飛び、同じことが繰り返されていたが、互いに腹を割って話し合った おかげか、才人とミシェルの間には午前中には見られなかったお互いへの配慮が感じられ、第一撃目から 二撃目へのつなぎ合わせがみるみる上達していった。 そのうち、依頼してあった固定化した剣がふた振り届けられた。見た目は変わらないが、強度は鋼鉄 以上に強化してある。これなら宇宙金属製のツルク星人の剣とも打ち合えるだろう。 そして、太陽が山陰に没しようとしている時刻、三人とも肩で息をし、隊員達もほとんどがへばっている そのとき。 「! できた!」 もう何百回目になるかの繰り返しの末、遂に三人の連携は完成を見た。相手役の隊員二人は 吹き飛ばされて芝生に横たわっている、アニエスの剣だけが訓練用の木剣でなかったら二人とも 死んでいるだろう。 「よし、今の感覚を忘れるな。いいか、今晩中にケリをつける、もうこれ以上一人の犠牲も出させはせん!!」 「はいっ!!」 ミシェル、才人、そして銃士隊員達の声が響き渡る。これで準備は整った、待っていろツルク星人。 そして、太陽が姿を隠し、再びトリスタニアに恐怖の夜が訪れた。 市街地は闇に包まれ、人の気配はない。人々は日が落ちると同時に家の鍵をかけて閉じこもり、 まるでゴーストタウンのようなありさまになっていた。 それだけではない。街を守るべき魔法衛士隊も兵士も、夕べの惨劇を思い出して捜索が及び腰に なり、いざ星人が現れても戦えるべくもなかった。 だがそんななかを、銃士隊は闇の中、目を梟のように研ぎ澄ませ、どこかに潜んでいるであろう ツルク星人を求めて警戒に余念が無かった。 凍りつくような時間がゆっくりと過ぎ、双月さえ地平に消える闇夜。 突如、闇夜に一発の銃声がこだました。 「出たな!!」 それは敵発見を知らせる合図であった。すぐさま街中に散らばっていた全銃士隊が駆けつける。 場所は、市街中心ブルドンネ街の大通り。星人はその中央にいた。 「いたぞ!!」 通りの両側から銃士隊員達が星人の逃げ道を塞ぐように布陣する。見ると、星人の顔面について いた火傷の跡が昨日に比べて小さくなっている。やはり、チャンスは今夜しかない。 連絡の銃を撃ったと思われる隊員は星人のそばに倒れていた。しかし死んではいない、斥候が 倒されることを避けるために、アニエスは前もって全員に『灰色の滴』というマジックアイテムを 渡していた。これは体に降りかけると、ごく短時間ではあるがその者の存在を近くにいる者の視界から 消し去る効果を持つ、欠点としてはその間一切身動きしなくては効果が無くなるということと、メイジの ディテクトマジックには見破られてしまうという点であるが、星人から隊士の命を守るには充分だ。 ツルク星人は、その隊員を探していたのだろうが、新たな敵を察知するとすぐさま臨戦態勢に入った。 「いいか、チャンスは一度、我々と奴、どちらの剣の重みが勝るか、思い知らせてやるぞ!!」 「「おうっ!!」」 アニエスの声とともに、3人は星人へ向けて突撃を開始した。 先頭に才人が立ち、デルフリンガーとともにガンダールヴのルーンが光る。未知の魔法の力で強化 された彼の視力は、振り下ろされてくる星人の右腕の刀を捉えた。すると、体があの特訓で鍛えた とおりに自然に動き、絶妙の位置で星人の刀を食い止めた。 すると、右腕を止められた星人は、左腕の刀で才人の背中に二段目の攻撃を繰り出そうとしたが、 そこへミシェルの剣が割り込んで、その自由を封じ込める。 「でゃぁぁ!!」「イャァァ!!」 次の瞬間、ふたりは渾身の力で星人の刀を押し返した。完全に虚を突かれた星人は、押し戻すことも できず、両腕を大きく広げ、胸を前にさらけ出す無防備な体勢を見せる。二段攻撃の姿勢が崩れた!! そして、今こそ三段攻撃完成の時。二人の後方から突進してきたアニエスが全力の突きを星人の 心臓を目掛けて打ち込む、星人は身動きを封じられている上に、火傷のせいで一瞬視界がぼやけ、 アニエスを発見するのがほんのわずか遅れた。 「くらえぇぇっ!!」 刹那。 アニエスの剣はツルク星人の心臓を打ち抜き、背中まで突き抜けていた。 「貴様が戯れに手にかけた人々の痛みを、知れ!」 そう言い捨てると、彼女は剣の柄から手を離した。 星人は、少しの間彫像と化したように固まっていたが、やがて短く鳴き声をあげると、両腕がだらりと 垂れ下がり、続いてその長身がゆっくりと後ろに傾き、やがて重い音を立てて地面に崩れ落ちた。 「や、やった……やったああ!!」 地に伏した悪魔の姿に、全銃士隊員の歓声が上がる。 侵略者の手先、仲間の仇、街の人々の仇、悪魔の化身を本当に人間の手で、しかも魔法衛士隊すら 敵わなかった相手を平民の手で倒した。 「隊長……」 「アニエスさん」 ミシェルと才人は気力を使い果たしたように、剣を下ろし、微笑を浮かべていた。 そしてアニエスも、二人に答えようと振り返った、そのとき。 「隊長!! 危ない!!」 突然、死んだと思っていたツルク星人が起き上がって、アニエスの背後から剣を振りかざしてきた。 丸腰のアニエスには避ける術はない。才人とミシェルは、とっさに星人とアニエスの間に割り込もうとしたが、 とても間に合わない。 (駄目か!!) 誰もがそう思い、絶望したその瞬間、いきなり星人の顔面、なにも無いはずの空間が火炎をあげて爆発を 起こし、星人の動きが止まった。今だ!! 「「でやぁぁっ!!」」 これが本当に最後の力、才人とミシェルの渾身の縦一文字の斬撃は、星人の腕を肩から斬り落とし、 今度こそ星人は仰向けに倒れ、その目から光が消えた。 「やっ、た……」 「隊長、ご無事ですか!?」 ミシェルが慌てて駆け寄ると、アニエスは自嘲しながら言った。 「すまん、勝ったと思ったとき一番隙ができるか。まったく、わかっていたつもりだったがこの様だ。私もまだまだ 修練が足りんようだ。迷惑をかけたなミシェル、それから……感謝する、サイト」 「いや、そんなこと……あ、そういえば初めてサイトって呼んでくれましたね」 「礼を尽くす価値のある者には、私はそれを惜しまん。見事な戦いぶりだった、戦友よ」 才人はアニエスに認められたことで、うれしいやら恥ずかしいやら、とにかく照れていたが、やがて大事なことを 忘れていたことに気づいた。いや、気づかされた。 「サーイートー」 「!! こ、この声は……ル、ルイズ!?」 振り返ると、路地の闇の中から浮かび上がるかのようにルイズの姿が現れた。 顔は、前にうつむいているせいで桃色の髪の毛に隠れて見えないが、本能的に才人は血の気が引いていくのを感じた。 「お、お前、なんでここに?」 「シエスタに、あの子に一日かけてようやく聞き出したのよ。まったくメイドのくせにはぐらかすのがうまくて何回 逃げられたことか。あ、心配しなくても手荒なことはしてないわよ。丸腰の平民に杖を向けるなんて貴族の名折れ ですものね」 口調は平静としているが、顔が見えないのでよけい恐怖心がかき立てられる。 そして一歩一歩近づいてくるのに後ずさりしたいが、あっという間に後ろは壁だ。 「それで、さっきの爆発は……」 「もちろんわたしよ。わたし以外にこんなことができる人間がいると思って? まったく、あんたというやつは、ご主人様を ほったらかして出かけたあげく、こんなところで戦って……あんたって、あんたってやつは!!」 ルイズの声が急に大きくなる。才人は鞭、いや、月まで届くほどの特大の爆発を覚悟して目を閉じた。 だが、2秒経っても5秒経ってもいっこうに痛みがやってこない。それどころか、なにやら胸のところに柔らかい 感触を感じる。才人がおそるおそる目を開いてみると。 「バカバカ!! サイトのバカ!! あんた、あんな化け物と戦って、死んじゃったらどうするつもりなのよ。わたしを 置いて、わたしのいないところで、そんなの、そんなの絶対に許さないんだから!!」 ルイズは、才人の胸に顔をうずめて泣いていた。怒りのためか、会えたうれしさのためか、小さなこぶしが 才人の胸板を叩く。やがて、胸に温かいものを感じて、それがルイズの涙だとわかると、才人は優しく彼女を 抱きしめ、耳元でささやくように言った。 「ごめんルイズ。でも、助けに来てくれたんだよな、ありがとう」 プライドの高いルイズの泣き顔を見ないようにしながら、才人はしばらくのあいだ、ルイズを抱きしめていた。 そして、それから十数分後。 「もう、帰るのか。せめて今晩くらい泊まっていけばいいのに」 ふたりは、ルイズの乗ってきた馬に乗って銃士隊に別れを告げようとしていた。 アニエスとミシェルの後ろでは、銃士隊の面々が残念そうに才人を見ている。共に死地を潜り抜け、もう彼を 素人と見下す者はいなくなっていた。 「いえ、お気持ちはうれしいですけど、一応俺はこいつの使い魔なんで、いろいろやることもありますから」 「そうか、だが今回の功労者は間違いなくお前だ。陛下に報告すれば勲章、いやシュヴァリエの称号も夢ではないぞ」 だが才人は笑いながら首を横に振った。 「せっかくですが、内密にお願いします。元々今回は俺の独断で出てきたんで、抜け駆けで表彰なんかされたら 仲間達に恨まれる。それに、使い魔なんかと並べられたらあなた方の今後にも不利でしょう」 アニエスは、才人の欲の無さと自分達への気配りに感心した。 「わかった。しかし私も銃士隊もお前に相当な借りができてしまったのは事実だ。何かまた困ったことがあったら うちに来い、出来る限り力を貸してやる」 その言葉には、ただ純粋な感謝のみが含まれていた。そしてアニエスに続いてミシェルも笑いながら才人に言った。 「お前、剣の振り方はまだまだだが中々見込みがある。今度みっちり鍛えてやろう、いやなんなら使い魔なんぞ やめてうちに来ないか、銃士隊は男子禁制だが、一人くらい多めに見てやるぞ」 「い、え、遠慮しときます」 「はは、言ってみただけだ。だが、見込みがあるというのは嘘じゃない、気が向いたらいつでも来い、私自ら 稽古をつけてやる」 彼女も、最初会ったときとは想像もできないような笑顔を見せている。 だが、黙って見守っていたルイズがそろそろ忍耐の限界に来たようだ。 「ちょっとあんたたちいいかげんにしなさいよ。そうやって朝までくっちゃべってる気?」 「あ、ごめん。じゃあアニエスさん、ミシェルさん、俺達そろそろ帰ります」 「うむ、また会える日を楽しみにしている。そうだ、ミス・ヴァリエール、貴公にも借りができたな、いずれこれは なんらかの形で返そう」 「かまわないわよ、平民を助けるのが貴族の責務ですから」 「いや、貴族にも誇りがあるように騎士にも誇りはある、借りは借りだ。サイト、お前の乗ってきた馬は後日 届けさせよう。では、壮健でな」 そして二人は、銃士隊に見送られて、星空の元を魔法学院へと帰っていった。 「ねえサイト」 「なんだ?」 学院へと続く街道を、二人きりで馬に揺られながら、ルイズは才人に話しかけた。 「あんた前に言ったわよね。次になにかするときには俺も連れてけって、でもあんたが何かするときに、わたしを 置いていっていいわけないでしょ」 「悪い、お前に迷惑かけたくなかったんだ。それに……」 すまなそうに答える才人に、ルイズはその言葉をさえぎって続けた。 「わかってるわよ。あんたが人の命を何より大事に思ってるってことくらい、でも、ご主人様に心配かけるなんて これっきりだからね」 「わかりました。次からはいっしょに来てもらいます、ご主人様」 「ふ、ふん、わかってるならいいのよ!」 二人は、たった一日会えなかったことを懐かしむかのように、双月の見守るなか話し続けた。 翌日、トリスタニアは大変なニュースで盛り上がっていた。 新設された女ばかりの騎士隊である銃士隊が、魔法衛士隊すら敵わなかった怪物を倒し、街に平和を取り戻した。 闇夜に潜む悪魔への恐怖におびえていた人々は、その活躍を褒め称え、朝日とともに戻ってきた平和を喜びあった。 そして王宮でも、銃士隊が王女アンリエッタの元で、果たした戦功にふさわしい対価を今度こそ得ようとしていた。 「トリステイン王女、アンリエッタの名において、銃士隊隊長アニエスをシュヴァリエに叙する。高潔なる魂の持ち主よ、 貴女に始祖ブリミルの加護と、変わらぬ忠誠のあらんことを」 アンリエッタの杖がアニエスの肩を叩き、シュヴァリエ叙勲の儀式が終わった。 シュヴァリエとは、王室から業績や戦績に応じて与えられる爵位で、これを与えられるということは貴族となると いうことを意味する。だが通常、貴族に与えられるのがトリステインのやり方で、平民がこれを得るということは まず無い。異例中の異例のことであったが、それだけの手柄を彼女があげているのも、また間違いない。 立ち上がったアニエスの肩にシュヴァリエの証である、銀の五芒星の刻まれたマントがかけられ、彼女の凛々しさに よりいっそうの磨きがかかったように見えた。 「おめでとうアニエス、まさかこんなに早くこれだけの手柄を立ててくるとは、わたくしも思いもよりませんでした」 「私達は、自分達のなすべきことをなしただけです。この称号は、いわば我ら全員で得たもの、私一人では 何もできませんでした」 あくまで謙虚なアニエスの姿勢に、アンリエッタは春の陽光のように優しい笑顔を彼女に見せることで答えた。 「いいえ、その強い団結力こそ何よりも誇るべきものでしょう。シュヴァリエのマントは一枚しか用意できませんが、 銃士隊全員にわたくしの名においてトリステイン全域での行動許可証を与えます。貴族と同格とまでは いきませんが、身分に関係なく魔法衛士隊などと同等に行動できるようになるでしょう」 儀式に立席した貴族達から声の無いどよめきが走った。平民にシュヴァリエを与えるだけでも異例なのに、 あまりにも破格の待遇だということだ。しかし、実際に王国の誇る魔法衛士隊の敗退した相手を彼女達は 倒している。表立って文句をつけられる者はいなかった。 「殿下……」 「驚くことはありません。貴方達は自らの力で剣が魔法に劣ることの無い武器だということを証明したのです。 これからも、その力をわたくしに貸していただけますか?」 「もとよりこの命、殿下のご自由であります」 最敬礼の姿勢をとり、すでに貴族としてふさわしい気高さを見せるアニエスに、アンリエッタはうなづくと 最後のトリステイン貴族入りの名乗りを命じた。 「ありがとう。それでは、新たなる貴族アニエスよ、その名を始祖の元へ報告を」 アニエスは、剣を抜くと天に向かって高くかかげ、高らかに宣言した。 「我が名はアニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン、この命はすべてトリステインのためにあり!!」 その声は、城に響き、空を超え、天に届いた。 そして、雲ひとつ無い空に輝く太陽が、新たな勇者の誕生を祝福するかのように、何よりも気高く雄大に輝いていた。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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※ 注意、今回は番外編です。本編とはなんら関係がありません。 変な夢を見た――― タバサが本を読んでいるとキュルケがバタバタと部屋に入ってきました。 「タバサ~!!お日様出てるのに雨降ってるよ~!!」 見たこと無いハイテンションでキュルケが話しかけてきました。タバサは半ばあきれ気味に読んでいた本を閉じるとこう説明しました。 「それはキツネのヨメイリと言って、こんな時はどこかでキツネが結婚式をしている。と、東方の伝承で言われている」 「ふ~ん、キツネのヨメイリなんだ・・・」 キュルケはそう言いながら後ろからあるものを取り出しました。 「じゃぁ、これは?」 「タコのマクラ」 「じゃぁ、これは?」 「サルのコシカケ」 キュルケは何故か色々な物を取り出してタバサに見せていきます。タバサも最初の頃は冷静に答えていました。しかし・・・ 「タツのオトシゴ・・」 「カツオのエボシ・・・」 「リュウグウのツカイ・・・・・・」 さすがのタバサも嫌な物を感じてきて滝のような汗をかいていました。 「・・・だから、何が言いたい・・・それは、リュウグウのオトヒメのモトユイのキリハズシ!!」 タバサが「ハッ!!」と気がつき横を見ると、おとーさん・ルイズ・キュルケ・コルベールがこんな事を言ってました。 「オニのカクラン」 「ヒンジャのイットウ」 「セイテンのヘキレキ」 「ウドンゲのハナ」 タバサはそのままひっくり返ってしまいました。 「・・・タバサ・・・タバサ?大丈夫?」 気がつくとタバサはキュルケから起こされていました。 「タバサ大丈夫?凄く魘されてたわよ?」 キュルケが心配して声をかけます。タバサはいつものように短く返事しました。 「・・大丈夫」 タバサはなんであんな変な夢を見たのかと少し考えていました。そんなタバサに一安心したキュルケはこういいました。 「よかった~。心配したんだからね。あ、ところでタバサ・・・」 キュルケは後ろから物を出して・・・ 変な夢を見た――― (これは・・・あの地獄の雪中行軍演習じゃないか・・・) コルベールは寒さに震えていました。 (・・・さ、寒い・・・) コルベールはあまりの寒さに、身動きが取れなくなっていました。行軍から抜けどんどん取り残されていきます。 (・・・置いてかないでくれ・・・助け・・・) コルベールの願いも空しく行軍はどんどん去っていきました。 その瞬間コルベールの意識がなくなりました・・・・ 気がつくと自分の研究室で寝ていたコルベールはホッとしていました。 「やれやれ、春も過ぎているというのになんて夢を・・・」 ふと、頭が濡れて冷たい事にコルベールは気がつきました。危険な薬品であれば大事となりますが、命にかかわるような変化は今のところありませんでした。 「特に何ともないようだが・・何かの薬品でもこぼしたかな?」 コルベールは何の薬品か確認してみることにしました。そこには、ミス・ロングビルから頼まれて作った脱毛剤が入った薬品のビンが倒れ・・・ 変な夢を見た――― キュルケは洞窟の中を歩いていました。しかし、どうも気にかかる事があります。 「洞窟の前にいた犬どっかで見たことあるんだけど・・・」 いくら考えても思い出せません。あまり気にしないことにして先に進んでいくことにしました。 しばらく歩いていると誰かにつけられてる気配がします。洞窟の出口まで来たところでキュルケは杖を取り出し振り向きざまにこう叫びました。 「あたしの後ろを取ろうたってそうは・・・あれ?」 しかし、そこには誰も居ませんでした。気のせいかと考え何歩か歩き出したところでやはり気になって振り返りました。 そこには、ジョンの大群が居ました。 「ひぃぃぃぃぃ~~~」 キュルケは声にならない悲鳴をあげながら逃げましたがあっという間に囲まれてしまいました。そうして、ジョン達がいっせいにクシャミを・・・ キュルケは「犬が・・・破裂・・・触手・・怖い・・」と魘されていました・・・・ 変な夢を見た?――― オーク鬼にとって人間は食料でしかない・・・ 一匹のオーク鬼に、メイドのシエスタは森の中で追い詰められてしまいました。しかし、シエスタは冷静に周りを見回すと静かに語り始めました。 「・・・誰も見ていない・・・相手はオーク鬼・・・曾御爺ちゃん、つかってもいいよね」 シエスタはもちろん平民の娘、魔法を使うことなど出来ませんでした。しかし、シエスタは曽祖父から代々あるものを伝えられていました。 戦時中の日本から異界の地であるハルケギニアに飛ばされた曽祖父は森に住むオーク鬼を目の当たりにし自分が納めた古武術を対怪物用に改良させました。そして、祖父・父とその技は受け継がれ研鑽を重ねついにシエスタの代で完成をみたのでした。 「・・・流合気柔術 皆伝 シエスタ 参ります!!」 シエスタは静かにオーク鬼に歩み寄りました。それを見たオーク鬼は巨大な棍棒をシエスタに振り下ろしました。しかし、振り下ろそうとした場所にシエスタはすでに居ませんでした。 棍棒が地面に到達しようとした瞬間、オーク鬼は投げられていました。木にぶつかって衝撃音とともに地面に落ち這い蹲るオーク鬼を他所にシエスタは靴を脱いでいました。 「結構危なかったのですよ。やっぱり裸足にならないと上手くいきませんね」 裸足になったシエスタはポンとその場で軽く飛ぶとオーク鬼の目前まで跳躍して来ました。 頭を振りながら起き上がったオーク鬼は目の前にいるシエスタに掴みかかろうとしました。 そんなオーク鬼に対して、シエスタはオーク鬼の指と自分の指を指きりのように絡めました。その瞬間、オーク鬼は動けなくなり悲鳴を上げていました。丸太のように太いオーク鬼の腕がピンと伸びてミシミシと音を立てていました。 「話し合いとか出来たらいいのですけどね~。でも、やっぱり無理ですよね」 そう言うと、シエスタはオーク鬼を放しました。許したわけではなく、仕留めにかかるためでした。 シエスタはよろけたオーク鬼の足を刈ると空中で顎と頭を掴み捻りながら地面へ逆さに落としました。グキリと鈍い音がしてオーク鬼は絶命してしまいました。 「悪く思わないで下さいね。あなたより私が強かった・・・それだけの事なのですから・・・」 靴を履くと、ため息をつきながらシエスタはその場を後にしました。 「シエスタには・・・今後、酒を飲ませることは絶対に許さん・・・」 オールド・オスマンは医務室に行く前にそういい残しました・・・ 変な夢を見た――― オールド・オスマンとギトーは草原に立っていました。するとどこからか音が聞こえてきました。それを聞いたオールド・オスマンはこう呟きました。 「? お祭りかな 」 ギトーは音のする方をみて行列を発見しオールド・オスマンに見に行きましょうと言いました。しかし、オールド・オスマンはこう言いました。 「いーや。来るまで待つ!!」 オールド・オスマンとギトーはその場で小一時間ほど待っていました。すると、ようやく目の前に行列が来ました。オールド・オスマンは行列に歩み寄るとこの祭りについて尋ねてみる事にしました。 「これはなんのお祭りかね」 それを聞いた行列の一人が冷たく答えます。 「葬式ですよ」 驚いているオールド・オスマンに冷たく答えた一人がさらに説明を続けます。 「麒麟も老いれば駑馬にも劣る」 さらに別の人が続けます 「老醜をさらすより先に生きたまま埋葬してしまうのさ。御苦労さん・・・ってね」 オールド・オスマンは滝のような汗をかきながらさらに尋ねました。 「誰の葬式なのかね」 聞いた後に聞かなければ良かったとなぜか後悔の念が出てきました。 「・・・見てみるかい?」 棺の中には花に囲まれて呆けたように挨拶をする自分の姿が・・・・ 「ハッ!!」 オールド・オスマンはため息をつきながらこう言いました 「・・・変な夢を見た・・・」 「夢かな?」 その声に辺りを見回すと教師生徒が揃ってニヤリと笑っていました・・・ 「ハッ!!」 「・・・ハッ!!」 「・・・ッ!!」 「・・・」
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春の使い魔召喚の儀式。メイジであるならば当然のごとく使い魔の召喚に成功する……はずだったのだが、ルイズと呼ばれる少女はそれが出来ないでいた。 ルイズは魔法が使えないと揶揄される。彼女が魔法を唱えれば生じるのは爆発のみ。しかし、ルイズは努力を積み重ねていた。 ただ、いくらその努力を積み重ねていようとも彼女は使い魔を呼び出すことが出来ず、本来ならば彼女はメイジ失格の烙印を押され、退学乃至留年という結果になったであろう。 だが彼女には幸運なことにもう一度チャンスが与えられた。それは教師であるコルベールが他の教師や学院長に嘆願した結果でもあった。 月が頭上に昇った今宵、ルイズは中庭に出ていた。コルベールの温情に答えるべく、魔法の練習をするために……。 繰り返される爆発音、眠りを妨げるこの騒音も、いつもは冷やかす生徒達は今夜だけはと、目を瞑るのであった。 沢山の書物を読んだ。 沢山の人に助言を仰いだ。 それでも結果がでない。明日こそは、明日こそは魔法を成功させて見せると誓い、練習に励むのであった。 そして日付が変わったであろうその時に、それは起こった。 ルイズが練習を切り上げようと思い、最後の一回と杖を振るう途中にそれは起きた。 いつもならば杖が振り切ってから生じる爆煙が杖を振る途中に起きたのだ。 そして月明かりによって明らかになる何かの影……この時ルイズは理解した。使い魔の召喚に成功したのだと……。 思わず小躍りして煙が晴れるのを待つルイズであったが、煙が晴れるにつれ、彼女の顔から喜びが消えていく。 そうどう見てもそこにいるのは妙齢の女性であったのだ。 ルイズは誰であるか問おうと一歩踏み出した。その時、女性が唐突に動き出した。 「ラジカール、レヴィちゃん、参上!」 なにやらピロリロリーンやらキュピーンとかいう擬音がついてきそうな挨拶をしでかしたのだ。 呆気にとられたルイズはレヴィちゃんなるこの人物をつぶさに観察する。スタイルは羨むぐらいに良い。黒髪を後ろでまとめている彼女の容姿は綺麗と言っても過言ではないだろう。 けどその格好はどうかと思う。彼女が美少女、少女と言われるような年齢ならば有りかも知れない。けど現実には彼女は美女であって美少女ではない。魔法少女チックな服装は痛々しい。 「誰……?」 辛うじてそう声を出すことが出来たルイズ。彼女はこの状況でよくまともな質問をしたと自画自賛していることであろう。 「魔法少女としての素質がいまいちな貴女を、スナック感覚で助けるために、ヘストンワールドからやってきた正義と平和の使者なのよ!」 くるくる踊りながらそんなことを言ってのける彼女をルイズは冷たい目で見ながら、スナックとかヘストンワールドって何?と心の中で思っていた。 決して突っ込んだら負けと彼女が思っていないということを弁明しておく。 ルイズの様子などお構いなく、ノリノリなレヴィちゃんは目をキラキラさせてルイズの両肩をがっしり掴んだ。 「悩み事とかあるでしょう! 言ってみて!」 鼻息が荒いレヴィちゃんはルイズをがくがく揺さぶる。 ルイズは絶対こいつは使い魔じゃない、そう思ったか定かではないが言い放つ。 「帰ってくれない?」 そんなルイズを素直じゃないツンデレかと思っているレヴィちゃんは尚をルイズに詰め寄る。 「ほらー、やっつけて欲しい人とか嫌いな奴とかいるでしょ! ほら!」 「いないことはないけど…」 折れた。ルイズは折れた。彼女のテンションについて行けなくなったルイズは用事が終わったら帰るのかしら、なんて思ったのか話に乗ってしまったのだ。 そして夜が明け、物語は魔法学院の教室へと移る。 「なんだよ”ゼロのルイズ”、使い魔は召喚できなかったんじゃないのか?」 教室に入るなり行き成りいちゃもんをつけ始めたこの少年、マリコルヌとその取り巻きはこの後降りかかる災いを知らない。 「え? こいつ? うざったいやつって…」 「こんな感じでうざいのよ…」 妙にうきうきしたレヴィちゃんとは対照的に覇気がないルイズ。 「なんだちょこざいな。あんなもんひとひねりですよー♪」 それはルイズに語ったのか、それとも彼らを挑発するために言ったのか、理由はともかく結果としてマリコルヌとその他数名の生徒は激昂した。 「なにー!ルイズの癖に生意気な!」 どこぞのガキ大将のごとく顔を真っ赤にさせて襲いいかかる彼らを尻目にレヴィちゃんは踊り始めた。 「トカレフ、マカロフ、ケレンコフ、ヘッケラーコックで―――」 キラリラリンという効果音つきで踊るそれは彼女の魔法を使うための舞、そして…… 「見敵必殺ゥ!」 何とも頼もしい掛け声と共に現れたのは二丁の銃、それは彼女の相棒ソードカトラスに他ならない! 驚くルイズを尻目に銃口はマリコルヌの額に合わさった! 教室に響く銃声、悲鳴、怒号…そして…… 「魔法じゃないの!」 「誰が?」 虚しく叫ばれるルイズの突っ込み。 「イェーイ! 物事なんでも速攻解決! 銃で!!」 一仕事終えて楽しそうに叫ぶ彼女にルイズはもはや突っ込みを入れる気もなくしてしまった。 「魔法なんて非現実的なものよりよっぽど確実な方法よ!」 高らかに笑い、そう宣言するレヴィちゃん。彼女はここが魔法学院とは知らない。 「ああ、風上のマリコルヌが風穴のマリコルヌになってしまった…」 誰ともなくそう叫ぶ声が教室に響く。 「頭痛いから教室に帰るわ……」 これは悪い夢、目を覚ませばいつもの日常が……。逃避を試みるルイズ、だがそうは問屋が許さない。 レヴィちゃんに首根っこを掴まれ引き止められる。 「何言ってんの?ここは教室だから帰るなんてできないぞぉ」 彼女の言うとおり。そもそも教室にいるのに教室に帰ることなど出来ないのだ。それよりもレヴィちゃんに突っ込まれるなんて……。 「そんなことより、今日はレヴィちゃんから素敵なプレゼントがありまーす」 「いらないいらない」 「何とこの銃をあげちゃいまーす!」 心の底から全力で拒否しようがレヴィちゃんには無駄無駄。無理やりルイズの手に二丁の銃を握らす。それはまだ発砲の余韻で銃口が暖かい。 「あ、それじゃあ時間だから帰るね! バイバ~イ!」 こうして自己満足を思うさま堪能したラジカルレヴィは、ヘストン・ワールドに帰っていきました。 テンション爆超のまま。 物語はここで終わらない。当然その後教室に踏み込んだ教師達によって、ルイズは事件の首謀者として拘束されてしまうのでした。 「ミス・ヴァリエール。君は、君はそんなことをする生徒ではないと信じていたのに……」 コルベールが目元を拭う。オスマンはそんな彼を気遣いながらルイズに優しく問いかける。 「何故こんなことをしでかしたのじゃ。君にはチャンスが与えられた…自棄になる必要はないじゃろう」 「ごめんなさいごめんなさい……」 ルイズは謝罪の言葉を口にしながら心の中で助けを求めていた……そしてそれに呼応するものが現れたのだ! 「マジカールメイド、ロベルタちゃん、参上!」(猫耳) 「お、同じくマジカルメイド、シエスタちゃん参上!」(猫耳) 続きません